自由への不当な干渉-圧制的な道徳律

 ミルは,自由への不当な(容認出来ない)干渉は大部分次の二つのどちらかの原因からくると(続けて)言いたいのだろうと,私は考える。(即ち)その第一は,人が受け入れない行動規則に服従することを他人に要求するところの圧制的な道徳律であり,他方は,より重要なものであるが、不当な権力である。

 最初の圧制的な道徳律について,ミルは多くの例をあげている。彼は,モルモン教徒(注:アメリカで1830年に創始されたキリスト教の宗派で,一夫多妻を主張)に対する迫害について,雄弁かつ力強い言葉を述べており,それは彼が一夫多妻制をよく思っているのではないかと誰も疑えないゆえにより一層彼の目的にあっている(注:言うまでもなく,好ましくない人間の自由も尊重するということ)。道徳律を守るという名目で行われた自由への不当な干渉についてミルがあげたもう一つの例は,安息日の遵守であり,それは,彼の時代以後,その重要性の大部分を失っている。ミルの弟子だった私の父は,T. H. ハックスリー(Thomas Henry Huxley,1825-1895:英国の生物学者でダーウィンの進化論を擁護した。)の講演は面白くないということを下院に説得する空しい努力をして彼の短い議会生活を過した(注:ラッセルの父親はラッセルが3歳の時に若死にした)。というのは,ハクスリーの講演が面白いとしたら,日曜日にハクスリーの講演を聞くことは非合法となるからである。
(注:みすず書房版の中村秀吉・訳『(ラッセル)自伝的回想』では,「安息日を守っていたら,日曜日にハクスリー(の講義)を★読む★楽しみも奪われてしまうではないか,と安息日墨守の不合理性を言っている」という注をつけているが,これは「日曜日にハクスリーの講演(や講義)を★聴く★愉しみのことを言っていると思われ,中村氏の注は的外れと思われる。因みにアマゾンで「Thomas Henry Huxley lectures」で洋書を検索すると何冊かひっかかる。)

Mill would, I think, go on to say that unwarrantable interferences with liberty are mostly derived from one or other of two sources: the first of these is a tyrannical moral code which demands of others conformity with rules of behavior which they do not accept; the other, which is the more important, is unjust power.
Of the first of these, the tyranny of moral codes, Mill gives various examples. He has an eloquent and powerful passage on the persecution of the Mormons, which is all the better for his purposes because no one could suspect him of thinking well of polygamy. Another of his examples of undue interference with liberty in the supposed interests of a moral code is the observance of the Sabbath, which has lost most of its importance since his day. My father, who was a disciple of Mill, spent his brief Parliamentary career in a vain endeavor to persuade the House of Commons that T. H. Huxley’s lectures were not entertaining, for, if they could be considered as entertainment, they were illegal on Sundays.
出典: John Stuart Mill,1955.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/1097_JSM-190.HTM

<寸言>
Thomas Henry Huxley が多数の聴衆を前に講演(や公開講義)をしているイラストを見れば、この文章のなかの lectures をどう訳すべきかわかるであろう。

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