シドニー・フックとの論争-「自由」か「死」か?

Sydney-Hook_Bertrand-Russell その頃、私は、シドニー・フック(Sidney Hook, 1902-1989)という名の米国の哲学者と論争を行った。両者とも、この論争において、議論を論理的に進めることは困難だということがわかった。彼はメンシェビキ(注:ロシア社会民主労働党が分裂して形成された、社会主義右派)であり、ロシアが世界を支配するのではないかと恐れるようになっていた。彼はそうなれば非常に恐ろしいと考えたので、それよりもむしろ’人類’は滅んでしまった方がましだと考えた。私は、将来のことはわからないし、’人類’が生きのびれば(いったんロシアが世界を制覇したとしても)過去におけるよりはるかに良くなるかも知れない(可能性がある)という理由から、彼のそうした見方と戦った。
私はチンギス・カン(注:モンゴル帝国初代皇帝、1162?~1227;在位は1206~1227)とクビラィ・カン(注:モンゴル帝国第5第皇帝、元の初代皇帝、1215~1294、在位1260~1294)の時代を例に引いた。両者(の統治期間)のへだたりはわずか一世代(約三十年間)のちがいにすぎなかったが、一方(前者)はまことに恐ろしく、他方(後者)は称賛に価した。けれども彼が引用することの出来た反例も沢山あった。それを考慮すると決定的な結論を下すことは不可能だったけれども、私は、より良い世界へのいかなるチャンスも希望を持ってこそ見出せるのであり、それゆえ、希望を持つ方を選択すべきであると主張した。もちろんこれは論理的な議論とはいえなかったが、大部分の人々がそのように考えることの方が説得力があると思うだろうと私は考えた。数年後、フックは再び公然と私を攻撃した。しかしこの時は、私が何もコメントする必要がないようなし方で攻撃がなされた。けれども、「自由」を防衛し、ヴェトナムに関する私の見解を攻撃するために、彼がその手段として、CIA(米国中央情報局)が資金を提供していたことが後に認められた雑誌(注:New Leader のこと)を選んでいたことがわかり、面白かった。
(ラッセル注:New Leader 誌は、中国に反対する論文を掲載することで蒋介石政府から三千ドル受け取った。同誌はその後、『詐欺の戦略! -世界の共産主義者の戦術に関する研究』という本の出版準備をし、そうして米国政府から、秘密裏に一万二千ドルの支払いを受けた。CIA(米国中央情報局)が米国議会歳出小委員会に、図書出版のための支出額を9万ドルから19万5千ドルに増額することを要求した時、CIAは立法府議員達に対し、その資金は、「CIA自身の活動の明細を述べるための、また「強力な反共主義の内容を有するための」図書’(の出版)に使われることを確言した。『ニューヨーク・タイムズ紙』1964年5月3日付より)

American philosopher named Sidney Hook at this time that was one which both of us found difficult to conduct on logical lines. He was a Menshevic who had become apprehensive of Russia ruling the world. He thought this so dreadful that it would be better the human race should cease to exist. I combated this view on the ground that we do not know the future, which, so long as Man survives, may be immensely better than the past. I instanced the times of Genghiz Khan and Kublai Khan, separated by only a generation, but one horrible, the other admirable. But there were plenty of contrary instances that he could have adduced, in view of which a definite decision was impossible. I maintained, however, that any chance of a better world depended upon hope, and was on this account to be preferred. This was not a logical argument, but I thought that most people would find it convincing. Sevetal years later. Hook again attacked me publicly, but this time in such a marner that no comment from me was necessary. It amused me, however, that for his defence of ‘freedom’ and his attack on my views on Vietnam, he chose as his vehicle a jounal later admitted to be financed by the Central Intelligence Ageney
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.3 chap. 3: _Trafalgar Square, 1969]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB33-120.HTM

[寸言]
利権を持っている人間や組織から資金や財政的支援を受けて特定の組織(企業、団体、時に政府=政権)を擁護する発言や宣伝をしているのであれば、たとえ自分は御用学者ではない/自分の信念を言っているだけだと言っていても,彼(彼女)は御用学者の一員である。自分が気に入らない者がもらうのは「賄賂」だが、自分がもらうのは「浄財」だと言う自己欺瞞(悪魔に魂を売った・・・)。

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