真っ暗な宇宙から打ち上げ花火を観察すれば(昔の暗い地球の時のお話)


TPJABCR2気球(今なら宇宙船)から祭りの夜を観測すれば

宇宙(天界)を研究する時には,見ることを除いて他のすべての感覚が締めだされます。太陽に触ることはできませんし,太陽まで行くこともできません。いまだを歩きまわることはできませんし(注:1969年になってようやくアポロ11号月面着陸),ましてや,すばる星にものさしをあててみることもできません。それにもかかわらず,天文学者たちは,地球上で役立つことがわかっている幾何学と物理学とを,なんらためらうことなく(これまで)宇宙にあてはめて来ましたが,もともとその幾何学と物理学は,触ることと移動することに基礎を置いていました。そうすることによって,アインシュタインが一掃するまで,苦労の種をみずからにもたらしました。けっきょく,私たちが触るという感覚から学んだ多くのことが,実は非科学的な偏見なのであって,そういう偏見は,真の世界像を得るためには拒否されなければならないということがはっきりしました。
uchu_hanabi 地球上のものごとに興味を持っている人間にくらべて,天文学者が(五感の全てを使えないことから)どれくらい困難をかかえているかを知るには,1つのたとえが役に立つでしょう。いま一時的に無意識になる薬をあなたが服用し,目覚めたときには記憶力を失っていて,推論する能力だけはある,と仮定します。さらに,あなたが気を失っている間に気球に乗せられて,気づいたときには暗い夜空を――イギリスにいるならば11月5日の夜,アメリカならば7月4日*注 の夜を――風を受けて漂っている,と仮定します。すると,あなたには,地上や汽車やあらゆる方向に進む飛行機から打ち上げられる花火が見えるはずです。しかし,暗いので地上や汽車や飛行機は見えません。そういった場合,あなたはどんな種類の世界像を組み立てるでしょうか? 永続的なものはなにもない,即ち,ただあるのはつかの間の閃光だけで,そのはかない存続期間中に,それらの閃光が非常に多様かつ奇怪なカーブを描いて虚空(宇宙空間)を移動する,と考えることでしょう。あなたはこれらの閃光に触ることはできません。ただ見ることができるだけです。明らかにあなたの幾何学,物理学それに形而上学は,(地上にいり)通常の人間たちのそれとはまったく異なったものになるでしょう。かりに通常の人間があなたと気球に乗り合わせていても,あなたには彼のいうことを了解できないでしょう。しかしアインシュタインが一緒にいれば,,あなたは普通の人よりもはるかにたやすくアインシュタインの言うことがわかるでしょう。なぜなら(気球上の)あなたは,多くの人の理解を妨げているいくたの先入観から解放されているからです。
*注:イギリスの11月5日は, Guy Forkes Day(1605年11月5日,議事堂を爆破し,ジェームズ1世と議員の殺害を企てた旧教徒による火薬陰謀事件があったが,その首謀者ガイ・フォークスの奇怪な像をつくり,子どもたちが町内を引き回して夜焼き捨てるお祭り。)アメリカの7月4日は,Independence Day, つまり,独立記念日(1776年)。いずれの日にも花火の打ち上げがある。

In studying the heavens, we are debarred from all senses except sight. We cannot touch the sun, or travel to it; we cannot yet walk round the moon, or apply a foot-rule to the Pleiades. Nevertheless, astronomers have unhesitatingly applied the geometry and physics which they found serviceable on the surface of the earth, and which they had based upon touch and travel. In doing so, they brought down trouble on their heads, which it was left for Einstein to clear up. It turned out that much of what we learned from the sense of touch was unscientific prejudice, which must be rejected if we are to have a true picture of the world.
An illustration may help us to understand how much is impossible to the astronomer as compared with the man who is interested in things on the surface of the earth. Let us suppose that a drug is administered to you which makes you temporarily unconscious, and that when you wake you have lost your memory but not your reasoning powers. Let us suppose further that while you were unconscious you were carried into a balloon, which, when you come to, is sailing with the wind on a dark night―― the night of the fifth of November if you are in England or of the fourth of July if you are in America. You can see fireworks which are being sent off from the ground, from trains, and from aeroplanes travelling in all directions, but you cannot see the ground or the trains or the aeroplanes because of the darkness. What sort of picture of the world will you form? You will think that nothing is permanent: there are only brief flashes of light, which during their short existence, travel through the void in the most various and bizarre curves. You cannot touch these flashes of light, you can only see them. Obviously your geometry and your physics and your metaphysics will be quite different from those of ordinary mortals. If an ordinary mortal were with you in the balloon, you would find his speech unintelligible. But if Einstein were with you, you would understand him more easily than the ordinary mortal would, because you would be free from a host of preconceptions which prevent most people from understanding him.
出典:From: The ABC of Relativity, 1925.
詳細情報:http://russell-j.com/cool/22T-0101.HTM

[寸言]
ラッセルが1925年に出した名著『相対性理論入門』(ABC of Relativity, 1925)は,版を重ね、その後の物理学の進歩にあわせて一部の語句を修正した上で、現在でも(改訂第5版)が出されている。

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