私が有害かつ人を堕落させると思っている気晴らしの中には,’泥酔‘や’麻薬‘が含まれている。両者の目的は,少なくとも当面,思考をなくす(消滅させる)ことにある。あるべき進路は,思考をなくすことではなく,思考を新しい方向(方面)に切り替える,あるいは,少なくとも現在の不幸から隔った方向(方面)に切り替えることである。
もしも,これまでの生活がごく少数の興味・関心に集中されていて,しかも,これらの少数の興味・関心が悲しみで覆われてしまっているとしたら,’思考の切り替え’は困難である。不幸に遭遇したときによく耐えるためには,幸福な時期に,ある程度幅広い興味・関心を養っておくことが賢明である。
Among those that I regard as harmful and degrading I include such things as drunkenness and drugs, of which the purpose is to destroy thought, at least for the time being. The proper course is not to destroy thought but to turn it into new channels, or at any rate into channels remote from the present misfortune. It is difficult to do this if life has hitherto been concentrated upon a very few interests and those few have now become suffused with sorrow. To bear misfortune well when it comes, it is wise to have cultivated in happier times a certain width of interests.
* suffuse (v):(光・色・涙などがーーーを)おおう、いっぱいにする
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap. 15:Impersonal interests
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA26-050.HTM
<寸言>
つらい経験をしたことが余りない人は,ちょっとした不幸で落ち込んでしまう。人によっては,それが「感受性が豊かな証拠」だと勘違いする人もいる。
ちょっとしたことで動揺する人は,「世間知らず」であり,狭い世界に住んでいる人である。
興味関心の対象が狭いと,それらが失われると,気分転換によって不幸を耐えやすくすることができない。
子供の幸福を望むのであれば,親や社会は,子供に広い視野や興味関心を持てるように家庭の躾や教育をしなければならない。