ラッセル『私の哲学の発展』第17章 「ピタゴラスからの後退」n.5 

 あの第一次世界大戦の一つの結果は、私が抽象の世界に生き続けることを不可能にしたということであった。私は、若者達が軍用列車に乗り込むのをいつも見ており、彼らは、将軍どもが愚かであるために、ソンム(訳注:on the Somme ソンムの戦い:第一次世界大戦における最大の会戦で、フランス北部を流れるソンム河畔の戦線において展開された闘い)で虐殺されていた。私はこれらの若者達に痛切な同情心を感じ、自分が苦痛によって現実世界に結びつけられているのを発見した(訳注:長い間抽象の世界に生きてきたが戦争によって現実世界に引き下ろされたということ)。観念の抽象的な世界について私の持っていたあらゆる大げさな考えは、私をとり囲む巨大な苦悩から見れば、薄っぺらかつつまらないものに思えた。非人間的世界は折々に逃げるために避難所としては残り続けたが、永遠の(永続的な)住処を築くための国としては残らなかった(失われてしまった)。

Chapter 17: Retreat from Pythagoras ,n.5
One effect of that War was to make it impossible for me to go on living in a world of abstraction. I used to watch young men embarking in troop trains to be slaughtered on the Somme because generals were stupid. I felt an aching compassion for these young men, and found myself united to the actual world in a strange marriage of pain. All the high-flown thoughts that I had had about the abstract world of ideas seemed to me thin and rather trivial in view of the vast suffering that surrounded me. The non-human world remained as an occasional refuge, but not as a country in which to build one’s permanent habitation.
 Source: My Philosophical Development, 1959, by Bertrand Russell
 More info.: https://russell-j.com/beginner//BR_MPD_17-050.HTM

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