政治体制に関係なく,権力の暴走には要注意

TP-P 私の次の著作は,『権力 -新しい社会分析』(1938年刊)であった。この本の中で私は,自由のための領域(を確保すること)は社会主義国家においてさえもいまだ望ましい問題であるが,それは自由主義の用語(自由主義の観点)ではなく,新たに定義しなおす必要があると主張した。私は今なおこの信条を保持している。この本の主題は重要なものに思われ,実際に世の注意を引いている以上に,もっと多くの人々の注意をひいてほしいと願った。 本書は,マルクスと古典派経済学者の両者に対する論駁を意図したものであり,細目についてではなく両者が共有している基本的な仮定について,両者の誤りを指摘した。私は,富よりもむしろ権力(注:政治的権力だけでなく広い意味での権力)が社会理論における基本的な概念であるべきであり,社会正義は,実際に可能な最大限まで権力を平等化することにあると論じた。続いて,もし国家が民主的でないならば,(社会主義国におけるような)土地と資本の国有(化け)はまったく前進とは言えず,また国家が仮に民主的であるとしても,役人(官僚)の権力を抑制する方法がとられた時にのみ前進と言える,と主張した。
私の主題の一部は,バーナム(著)「経営者革命」(注:Burnham’s Managerial Revolution)の中にとりあげられ,普及した。しかし,それがなければ,この本はむしろ失敗に終わっていたと言ったほうがよいだろう。けれども,私は,もし全体主義の害悪が回避さるべきものとすれば,-特に社会主義政権下においては- 『権力』における私の主張はきわめて重要性を持っている,という考えを今なお抱いている。

My next piece of work was Power: A New Social Analysis. In this book I maintained that a sphere for freedom is still desirable even in a socialist state, but this sphere has to be defined afresh and not in liberal terms. This doctrine I still hold. The thesis of this book seems to me important, and I hoped that it would attract more attention than it has done. It was intended as a refutation both of Marx and of the classical economists, not on a point of detail, but on the fundamental assumptions that they shared. I argued that power, rather than wealth, should be the basic concept in social theory, and that social justice should consist in equalization of power to the greatest practicable degree. It followed that State ownership of land and capital was no advance unless the State was democratic, and even then only if methods were devised for curbing the power of officials. A part of my thesis was taken up and popularized in Burnham’s Managerial Revolution, but otherwise the book fell rather flat. I still hold, however, that what it has to say is of very great importance if the evils of totalitarianism are to be avoided, particularly under a Socialist regime.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2 chap. 5: Later Years of Telegraph House, 1968]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB25-060.HTM

[寸言]
権力(悪)の問題は、単なる一部の悪徳政治家や官僚等による汚職などの問題としてではなく、権力そのものが有している危険性に対処することの重要性(権力者は必ず腐敗する、従って常に相互チェックする仕組みを埋め込まないとダメ)という視点で考えないといけない、ということ。その監視を抜けるためには、権力者にとって、特定秘密保護法や非常事態対処法や憲法の恣意的解釈は好都合。

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