バートランド・ラッセル『権力』(松下彰良・対訳)
* 原著:Power; a new social analysis, by Bertrand Russell (London; George Allen & Unwin, 1938)総目次
第12章 権力と統治形態 イントロ累積版
- 組織体の最も重要な特徴は,その組織の目的は別として(除いて),次の四つである。
- これに反して,市民に対する国家権力は,憲法の規定で市民の恣意的な逮捕や略奪を禁じている限り(場合)を除いて,制限されない。
- 組織(体)が構成員以外の人々に対してふるう権力は,それほど容易には定義できない。
- 民間組織(私的組織)の対外的な権力は,国家によって嫉妬とともに(羨望の眼で)見られがちなものであり,それゆえ,大部分,超法規的なものである。
- 民主主義国においては,最も重要な民間組織(私的組織)は経済的なものである。
- 私は今や(組織の)統治形態の問題に至っており(検討すべき時であり),最初に,絶対君主制から検討を始めるのが自然である。
- 心理的にみて,絶対君主制の長所は明らかである。
- 命令と服従の関係を除いて,一つの社会の人々を結びつける絆(band)としての,人々の間におけるそれ以外(命令と服従の関係以外)の任意の関係の難しさは,国家間の関係を例にあげて説明できる。
- 以上の考察から引き出される結論はこうである。
- それは(やすやすと征服者に屈服するのは),中枢に近い集団(inner group)における(王/君主に対する)忠誠心及び一般住民における恐怖心の動機は,非常に単純かつ容易なものであり、主権国家の領土(注:area 主権の及び範囲)の拡大はほとんど全て征服によってなしとげられてきたものであり、自発的な連合によってなしとげられてきたのではないからである。
- これに反し,もし君主政治(君主制)が世襲(制)でなければ,内乱はよりいっそう起りそうである。
- 君主政体(君主制)の持つ欠点でもっと重大なものは,臣民(subjects 国民)の利害と王の利害とが一致する場合は別として,通常,君主政体においては臣民の利害に対して無関心であるということ(事実)である。
- 君主政治(君主制)が衰退する別の原因(君主と臣民の利害の不一致以外の原因)は,もっと重要である。
- 絶対君主制の自然な継承者(自然な後釜となる政治制度)は,寡頭政治(少数支配者による政治)である。
- 一つの教会あるいは一つの政党による統治 -それは神権政治と呼んでいいかもしれない- は,近年新しい重要性を呈してきた
- けれどもその結果は,オールド・ボルシェヴィキ(注:Old Bolshevik:ボリシェヴィキ(=ロシア共産主義者)のうちで帝政ロシア時代,即ち1917年の十月革命以前から活動していた者を指す呼称)が望んでいたものとはまったく異なっていた。
- 神権政治が何らかの新しい信条を示している場合,その長所は時として非常に大きなものであり,時として長所はほとんどない。
- 権力が一つのセクト(党派,分派)のメンバーだけに限られている場合,イデオロギー上の厳しい検閲が存在することは不可避である。
- ここまで,君主政治と寡頭政治には長所と短所の両面があることを,我々は見てきた。
- 全ての組織体において,だが特に国家において,統治の問題は二重にある。
- これらの本質的な限界(注:緊急対応の必要性や,専門的な事柄や国民が理解・判断が困難な事柄が少なくないという事情)があるために,最重要な事柄の多くは,選挙民によって,政府に委託(委任)されなければならない(政府に任せなければならない)。
- ここからえられる教訓は,民主主義国(a democracy)は - 選挙で選ばれた代議士(たち)に権力を委任せざるを得ないので- 革命的な状況においては,代議士たちが民主主義国の(いろいろな)願望を代表し続けてくれるという安心感(security)を感じることができない,ということである。
- 一つの統治形態としての民主主義の難しさ(難点)は,民主主義が迅速な妥協 (進んで速く妥協すること)を要求することである。
- 現代の大国における民主主義は,ある一定の短所を持っているが,それは。実際,同一地域に対する他の統治形態と比較しての話ではなく,当該住民の数が膨大になったことによる避けることができない短所である。
- 誰か指導者に対して熱意を感じている場合を除いて,大きな民主主義国(a large democracy)の有権者は,ほとんど自分が権力を持っているという感覚を持っていないので,自分の投票権を行使することに価値あるとは考えないことが多い。
- これまで,我々は政治における統治形態について関心を払ってきた(検討してきた)。
- 株式会社(bisiness corporations 事業法人/私企業)は非常に多様な寡頭政治的組織形態を示している。
- 株式会社(事業法人)の組織の複雑さは,いかなる政治機関の組織の複雑さよりも大きなものになりがちである。
- 所与の機関(や制度)において統治形態がどのように変化するかについても何か言わなければならない。
- 過去において,民主主義に逆らう影響(力)を及ぼしてきた二つの力は、富と戦争であった。
- 民主主義に敵対する現代の動向は -戦争心理(war mentality)と結びついているけれども- ナポレオンの場合(事例)とはあまり似ていない。
- 民主主義は,初めて生まれる時には,(民主主義成立)以前の権力の保持者たちに対する憤りから生じる。
- 統治(政治)は,いついかなる時代においても,軍事的技術によって大きな影響を受ける。
- > しかし,こうした考えに対して,一定の考慮すべき事項が幾つかある。