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バートランド・ラッセル 私の哲学の発展(松下彰良 訳)

My Philosophical Development, by Bertrand Russelll (London; George Allen & Unwin, 1959)


総目次

第16章「非論証的推論」

  1. 私は1944年6月に(訳注:野田訳は7月と誤記)、三週間の大西洋航海を経て、イギリスに戻った。・・・。

  2. 私が強いられた(認めざるをえなくなった)もうひとつの結論は、もし我々(人間)が(自分達が)ただ経験でき、立証(検証)できるものみを知る(それ以外知ることができない)としたら、 科学だけでなく、誰もがまじめには疑うことのない多くの知識が不可能になるということ(結論)である。 ・・・。

  3. あらゆる確率(蓋然性)はこういう統計的な種類のものであると考える理論は、(確率)「頻度」説(frequency theory) と呼ばれる。・・・。

  4. 私が到達した結論は、 確率が確定的(definite)である場合には常に頼度説を適用できること、しかし、また、誤って同じ名前(=頻度説)で呼ばれている別の(もう一つの)概念があり、それ(その概念)に対しては、ケインズの理論に近いものが適用できるということであった。・・・。

  5. 次に、私は論理外の原理によってのみ検証される(正しいと認められる)ような推論であるけれども、 我々がまったく堅固である(確かである)と感ずる推論の実例の収集に熱中した(devoted myself to 専心した)。・・・。

  6. 分析不足の結果、人々はある種の知識を支持する主観的な先入見(偏見)をもつがゆえに非論証的推論のいくつかを認めてきたのであり、またその反対の先入見をもつがゆえに他のいくつかの非論証的推論を拒否して来たのだ、ということを私は発見した(気づいた)。・・・。

  7. 我々は皆、疑うことなく知識として受けいれるものの大部分は、証言にもとづいており(依存しており)、証言は 今度は(in turn 順番に)、我々(自身)の精神の他に他人の精神も存在するという信念にもとづいている(依存している)。・・・。

  8. 次に純粋に物理的な出来事(physical occurrences)に移ろう。・・・。

  9. さて)科学だけでなく、(我々の)常識の大部分は、個別的出来事(個々の出来事)ではなく、一般的法則(一般法則)に関係している。・・・。

  10. 哲学者達の間では次のように考えるのが常に習慣となっている。・・・。

  11. 非論証的推論において非常に有用と思われたもうひとつの概念、即ち、「構造」 (structure) の概念がある。・・・。

  12. 科学的推論の正当性を理由づけるために必要な一般原理は、通常の意味で(意味において)、証明が可能なものではない。・・・。

  13. 非論証的推論(がもとづくところ)の論証(実証)不可能な諸前提が精確にどういう認識論的機能をもつかを説明する前に、帰納法についてもう少し述べておかなければならない。 ・・・。

  14. 何らかの提示された一般命題(← some suggested generalization:一般化)が、その命題を支持あるいは否定する証拠を吟味する前に、それを指示する有限な確率(a finite probability in its favour)を持っていることをいかにして知ることが可能だろうか?・・・。

  15. 私が「準永続性の要請(公準)」 (the postulate of quasi-permanence) と私が呼んでいる (5つの要請/公準の中の)第一の要請(公準)は、ある意味で、ニュートンの運動の第一法則に代るものと考えてよいだろう。 ・・・。

  16. 第二の要請(公準)は、因果線の分離可能性の要請 (the postulate of separable causal lines) である。・・・。

  17.  第三の要請(公準)は時=空の連続性の要請 (the postulate of spatio-temporal)- これは主として遠隔作用(訳注:action at a distance 遠隔作用は、物体が空間を隔てて直接力を及ぼすとするニュートンの仮説で、アインシュタインの相対性理論によって否定された)を否定することに関係している要請- である。・・・。

  18. 第4の要請(公準)- 私は「構造上の要請」 (the structural postulate) と呼んでいるもの- は非常に重要であり、また、非常に実りの多いものである。・・・。

  19. 最後の要請(注:5つ目の要請)はアナロジー(類比性)の要請 (the postulate of analogy) であり、この要請の最も重要な機能は、他人の精神(心)が存在するという信念を正当化することである。・・・。

  20.  繰り返して述べるが、これらの要請(注:非論証的推論を擁護するために必要な5つの要請)は、それらの要請が我々がみな妥当であると容認する推論の中に暗に含まれているという事実によって正当化される。・・・。

  21. 『数学原理(プリンキピア・マテマティカ)』に取り組んでいた時以来ずっと、当初はほとんど意識していなかったが次第に私の思考において明確になってきたあるひとつの方法を私は持っていた。・・・。

  22. 科学的知識のいくつかの体系の分析から始めよう。・・・。

  23.  私は、物理学の解釈に数理論理学の方法を適用したということで、これまで大いに批判されてきた。・・・。

  24.  デカルト的懐疑の方法は - 若い時には魅力的に思われ、現在でも論理的解剖の仕事における道具として役に立つかも知れないが- 私にとって、もはや根本的な妥当性を持っている方法とは思われない。・・・。

  25. 生の事実から科学への移行において、我々(人間)は演繹的論理の推論形式に加えて種々の推論形式を必要とする。 ・・・。

    第17章