バートランド・ラッセル『権力』(松下彰良・訳)
* 原著:- Power; a new social analysis, by Bertrand Russell (London; George Allen & Unwin, 1938)総目次
第2章「指導者と追従者」 イントロ累積版
- 権力衝動には二つの型がある。
- 権力の分配における不平等は,我々の知るかぎり,どこまで歴史を遡ってみても,人間社会には常に存在してきた。
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アドラー(Alfred Adler, 1870-1937:オーストリア出身の精神科医,心理学者) は自著『人間性の理解』(Understanding Human Nature, 1927)の中で,服従型(隷属型)と専制型(imperious 命令型?)という区別をしている。
- 権力愛は,種々の限定された形(態)で,(世間に)ほとんど普遍的に存在しているが,その絶対的な(形)態では,稀にしか存在していない。
- 服従衝動も,命令衝動とまったく同様に,現実的かつ普通にあるものであるが,この衝動は恐怖心に根ざしている。
- 組織体は,(種々の)危険に対処する目的のために立案設計されることもあれば,そうでないこともある。
- 攻撃性(攻撃的であること)もまた,しばしば,恐怖心に根ざしている場合が多いことは、ありふれたこと(普通のこと)になっている。
- 指導者に必要な自信は,様々な形でもたらされうる。
- 歴史上知られている最も有能な指導者のなかには,革命状態の時に立ち上がった者がいた。
- ナポレオンは,クロムウェルやレーニンとは対照的に,傭兵(ようへい:金をもらって闘う兵隊)の最高の見本である。
- 傭兵(金で雇われる兵士)や海賊の首領は,いわゆる「科学的」な歴史家が考えている以上に歴史上の重要人物の一つの典型(タイプ)である。
- 前述したように,普通の穏やかな市民が指導者に従う時は,大部分,恐怖心によって導かれる。
- このように,一つの動機としての権力愛は,臆病さによって制限を受け,臆病さもまた,自発的でありたいという欲求を制限する。
- 無政府状態の後,その自然な最初の第一歩(第一段階)は独裁制(専制政治)である。
- 論議による統治(政治)を可能にするための連帯感(団結意識)は,フッガー家や,ロスチャイルド家など家族の場合や,クエーカー(キリスト友会)のような小規模の宗教団体や,蛮族(未開民族)や,戦時下や戦争勃発の危機にある国家においては,大きな困難もなく生みだすことができる。
- これまで,私は,命令する者(支配者)と従う者(追従者)について述べてきたが,第3のタイプ,即ち,引き下がる者(脱落者)が存在する。
- それらの引き下がる者(引っ込む者)の中に(は),権力に全く無関心というのではなく,単に通常の方法では権力を獲得できない者がいる。
- 臆病な者の間で,組織化(組織の形成)が促進されるのは,指導者への服従だけからではなく,同じように感じる群衆の中の一人であることで感じられる安心(感)によってである。
- この情緒(注:群衆の陶酔感)を生み出すのに指導者(というもの)は必須のものではなく,音楽によって,また,群衆によって見られる何らかの興奮を催す行事によって生み出すことが可能であるが,雄弁家の言葉(弁舌)は,この情感を導き出す最も容易かつ最も普通の方法である。
- 雄弁家が欲する大衆(mob)とは、反省よりも情緒を好む大衆であり(one more given to emotion than to reflection 反省に割り当てられるよりも,情緒の割り当てられる)、恐怖(心)に満ち、その結果,憎悪に(も)満ちた大衆であ
- けれども,権力を愛する者がみな雄弁家タイプであるわけではない。
- 雄弁家が成功するためには直観的心理学(intuitive psychology)が大いに必要である一方,ブルノー・ムッソリーニ型の飛行家は(飛行家ならば),焼け死ぬことは不愉快だということを理解する以上の心理学を持ち合せなくても,十分満足を得ることができる。
- 機械力に頼る寡頭政治における支配者の心理学は,今までのところ,まだいかなるところでも十分には展開されていない(開発されていない)。
- 物に対する支配力でなく,人間(人々)に対する支配力が,本書で(私が)扱う主題である。
- こういうことは全て,不必要な悪夢に過ぎないと,読者は思うかも知れない。
- 昔は,人々は魔力(神通力)を獲得するために,悪魔(注:Devil と大文字)に自分を売った(自分の魂を悪魔に売り渡した)