「ラッセル徒然草」では、(あくまでもラッセルに関したものという限定のもと)ラッセルに関するちょっとした情報提供や本ホームページ上のコンテンツの紹介、ラッセルに関するメモや備忘録(これは他人に読んでもらうことを余り意識しないもの)など、短い文章を、気が向くまま、日記風に綴っていきます。 m
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ラッセル英単語・熟語1500 |
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『日米開戦』と『Exective Orders』と二作を通じて、日本を敵国とし、中国やアラブ諸国をあたかも悪魔とする小説が読者にある偏見を植えつけることは間違いないことだ。しかも作者(トム・クランシー)が初版で二百万部以上を刷る超のつく人気作家とあれば、そのもたらす影響力の強さを看過することはできないだろう。仮想敵国の脅威を拡大し、やたらに愛国心を煽る(あおる)ことは危険ですよ、と指摘するオリバー・ストーン監督の言葉は心に響く。
ここで想い出されるのは、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルの民主政治の難しさについて語った次の一節である。(出典:『人生についての断章』みすず書房)「他人のしていることについて、その人を愛したり憎んだりしないかぎり、あまり興味を持たない。他人に興味を持たなければ、わざわざ他人について知識を求めようともしない。だが、愛したり憎んだりするかぎり、われわれが他人について得る情報は、間違っていることが多い。このことは、とくに、国家間の知識についていえる」。続いてラッセルは、
「アメリカ人はとくにこの傾向が強く、好きでも嫌いでもない国に対しては従って何の知識も持とうとしないし、何も知らないこととなる」とした上で、さらに言葉を継いで
「もしもアメリカ人が、ある国に好感を持ったり、悪い感情を持つ場合、アメリカの新聞は、状況に応じてその国に関する好意的もしくは、悪意的情報を国民に提供するので、アメリカ人のその国に関する偏見は、大量の知識と称されるものによって、徐々に裏づけられてしまう」と述べている。
一九三〇年代に書かれたこの文章がすでに指摘しているように、関心や興味がなければ人は新聞といえども買わないし、読まない。つまり興味や好奇心を煽るために好き嫌いの感情を露に(あらわに)した新聞なら売れるわけで、そこには当然のごとく意図的な偏向が生じるのは止むを得ないこととなる。ラッセルの慧眼(けいがん)が見抜いたこの民主政治の弱点を、オリバー・ストーン監督もクランシーに警告しているのだ。興味を持たせるために作り出した'架空の敵意'がやがて'真実の敵意'にいつしか変ってしまう恐れがありますよ、と言っているのである。・・・。