バートランド・ラッセル『宗教と科学』(松下彰良・訳)
* 原著:Religion and Science, by Bertrand Russell(London; George Allen & Unwin, 1935)
第3章「進化」 イントロ累積版
- 科学は(一般に)予想されたのとは逆の順序で発展してきた。
- 現代人(の精神)にとって,(人類社会の)発展や漸進的成長に対する確信(belief)を持つようになってからまだ間もないということを理解(認識)することは難しい
- これら全てのこと(注:原罪やノアの洪水など)は,実際に聖書の中で語られていることであるにしろ,そこ(聖書の記述)から演繹できることであるにしろ,実際に,歴史的な事実問題(事実である事柄)として(当時の人々によって)考えられた,ということを理解しなければならない。
- 科学はこのような狭い枠(枠組み)の中に閉じこもることが求められ,我々が見ることのできる世界が存在した時間(の経過)が六千年間では短かすぎると考えた人々はそしられた。
- 18世紀は,ニュートン(1642-1727)から,敬虔という特有の焼印を手に入れた。
- アン女王の時代に考えられた法の支配(の概念)は,政治的安定及び革命の時代は去ったという確信,と結びついている。
- この著作が注目に値するのは,ひとつには,銀河や星雲(注:nebulas 宇宙空間に漂う,重力的にまとまりをもった宇宙塵や星間ガスなどから成る天体)がその構成単位である物質世界全体という概念により,また,ひとつには,最初の(初期の)空間全体(宇宙全体)に物質がほぼ均一に分布している状態から漸進的に成長(発達)するという考えである。
- ラプラスの有名な星雲説は,1796年,彼の『宇宙体系の解説』の中で初めて発表されたが,彼は明らかに星雲説がカントによって(既に)相当程度先鞭がつけられていたことを全く知らなかった。
- 地質学における科学的な物の見方の発展は,ある点で,天文学の場合(物の見方の発展)とは逆方向であった。
- 18世紀には,二つの学派 -即ち,岩石水成説論者(Neptunists)と岩石火成説論者(Vulcanists)ー による論争がとても盛んだった。
- 地質学において現代の科学的な見方を最初に発表した著作家はハットンであり,彼の「地球論」は1788年に初めて出版され,その増補版が1795年に出版された。
- このような見方(注:削剥や,地盤の沈下や隆起,などによる大陸の生成消滅)を採用するのを,早い時期(時代)に,妨げていたのは,主としてモーセの年代記であり,創世紀(物語)の支持者たちは,ハットンや彼の弟子のプレーフェアを猛攻撃した(注:Mosaic 大文字の場合は,モザイク画ではなく,「モーセの」)。
- 新大陸の発見によって多くの困難(難事)が生じ始めていた。
- 動物学の発展とともに知られるようになった種(しゅ)の(単なる)数だけから(も),別の難点が生じた。
- この種の困難は,19世紀全期間を通して,信仰の厚い人々の心を悩ました。
- 生物学の分野で(キリスト教の)正統信仰を救おうとする奇妙な試みがエドムンド・ゴッスの父である博物学者ゴッスによってなされた。
- 植物や動物が,系統(descent 出自)や変異(variation)によって段階的に進化したのだという,主として地質学から生物学に受け継がれた学説(doctrine)は,三つの部分に分けられるだろう。
- 進化論を目立たせた(に名声を与えた)最初の生物学者はラマルクであった。
- ダーウインの理論は,本質的に言って,「自由放任」経済学を動植物の世界に拡張したものであり,マルサスの人口論に示唆を受けている。
- ダーウインの理論は,突然変異が起ることに依拠しているが,彼も告白しているように,その原因は未知であった。
- ダーウイン主義(進化論)は、コペルニクス主義(地動説)同様に厳しい一撃を神学に与えた。
- よくあることだが,(新学説に反対する)神学者たちの方が,新学説の擁護者たちよりも,新学説がどういう結果を生むかをより早く認識した。
- けれども,神学者たちは,一般の人々よりも,(ダーウィンの学説に)含まれているもの(こと)を明白に見て取った(理解した)。
- 非科学的な世俗のキリスト教徒の態度はグラッドストンによく現われている。
- 宗教は,今日では,進化論に適応するとともに、新しい議論を引き出しさえしている。
- 進化論に基礎を置くいかなる神学にも,(上記以外の)別のより重大な反対がある。
第4章 悪魔研究と医学