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バートランド・ラッセル落穂拾い- 中級篇 (2019年)

R = バートランド・ラッセル

2011-2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2020年

索引-出版年順 著者名順 書名の五十音順

 R落穂拾い(中級篇)>は,ラッセルに言及しているもので「初心者向けでないもの」や「初心者向けではないかもしれないもの」を採録。初心者向けはR落穂拾いをご覧ください。


・カルロ・ロヴェッリ(著),冨永星(訳)『時間は存在しない』(NHK出版,2019年8月刊)(2019.12.27)

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カルロ・ロヴェッリ(Carlo Rovelli, 1956~ ):理論物理学者。ボローニャ大学卒業後、パドヴァ大学大学院で博士号取得。現在はフランスのエクス=マルセイユ大学の理論物理学研究室で、量子重力理論の研究チームを率いる。「ループ量子重力理論」の提唱者の一人。

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今世界的なベストセラーになっている、(ホーキング博士の再来と言われている)高名な物理学者の時間論です。

「(pp.165-166) 基礎物理学の法則は「原因」を語ることなく規則性のみを語り、過去と未来に関して対称である。イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは有名な論文でこの点に着目し、「因果律は・・・過ぎ去った時代の遺物であり、ちょうど専制君主制度のように、害をなさないという勘違いのおかげで生き延びているにすぎない」と強い調子で記している。むろんこれは誇張である。というのも根本のレベルで 「原因」がないというだけの理由で、原因という概念自体が時代遅れになるわけではないからだ。根底的なレベルでは猫も存在しないが、だからといってわたしが猫の世話をしなくなるわけではない。過去にエントロピーが低いという事実があればこそ、原因という概念が有効になる。
 そうはいっても、記憶や因果、流れや「定まった過去と不確かな未来」といったものは、ある統計的な事実、すなわち宇宙の過去の状態としてありそうにないものがあるという事実がもたらす結果にわたしたちが与えた名前でしかない。」


・ジミー・ソニ,ロブ・グッドマン(著),小坂恵理(訳)『クロード・シャノン- 情報時代を発明した男』(筑摩書房,2019年6月刊)(2019.09.18)

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クロード・シャノン(Claude Elwood Shannon, 1916年4月30日- 2001年2月24日:米国の電気工学者、数学者。情報理論の考案者であり、情報、通信、暗号、データ圧縮、符号化など、今日のコンピュータ技術の基礎を作り上げ、今日の情報社会に必須の分野の先駆的業績を残した。

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 シャノンは,通信工学のパイオニアとして有名ですが、その生涯についてはまったくというほど私は知りませんでした。現代のデジタル情報時代の一番の立役者なので、興味をいだき、公共図書館で借りて読んで見ました。

 すると、最後の章「第32章 余波」の冒頭にラッセルの「数学の研究」(1907年発表/ Mysticism and Logic, 1918に再録)からの引用が掲げられていました。それは次の訳文ですが、ラッセルはこんなことを言うはずはない、少なくともこういった表現をするはずはない、と感じました。

 心の底から喜び、精神が高揚し、自分を人間以上の存在に感じられることは卓越した才能の持ち主の試金石である。このような人物は詩の世界だけでなく、数学の世界にも確実に見いだされる。(バートランド・ラッセル)

 そこで原文を参照したところ次のような英文でした。

The true spirit of delight, the exaltation, the sense of being more than man, which is the touchstone of the highest excellence, is to be found in mathematics as surely as in poetry.

 やはり誤訳でした。「数学の世界にも見いだされる」のは小野さんの訳文にある「このような人物」ではなく、「真の喜び、精神の高揚、人間以上の存在(になったかごとく)の感覚」のことであることは、原文(の構文)をみれば明らかです。
 読者は誤訳に気づかずに、意味がよくわからないと思いながらも、気にしないで読み進むすすほかありません。しかし、訳者は、よく意味がとれない時はわかりそうな人に聞いてみるべきでしょう。

 なお、「はじめに」のp.14にもラッセルの名前が出てきます。