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私は,病気になる前,中国を離れた後日本で講演旅行をすることを引き受けていた。・・・私たちは,12日間の熱狂的な(歓迎の)日々を過ごした。それは,非常に興味を引くものではあったが,およそ愉快と言えない日々であった。・・・私はまだ非常に衰弱していたので,不必要な疲労は一切避けたいと願っていた。しかし日本の新聞記者(ジャーナリスト)は,とても難物であることがわかった。船が着岸した最初の港(注:門司)には,30人ほどの記者団が座って待ちかまえていた。私たちは旅程を極力秘密にしていたが,彼らは唯一,警察ルートを通して,私たちの動きを嗅ぎつけていたのである。日本の各新聞は,私の死亡の誤報について,訂正記事を載せることを拒絶していたので,ドーラは,彼らの一人一人に,ラッセルは死亡したので記者会見に出席できないとタイプした紙を,渡した。彼らは歯の間から空気を胸に吸い込み,「オー! ヴェリイー・ファニイイ!(こいつは笑止千万/Ah! veree funnee!)」と言った。
Before I became ill I had undertaken to do a lecture tour in Japan after leaving China....Owing to my being still very feeble, we were anxious to avoid all unnecessary fatigues, but the journalists proved a very difficult matter. At the first port at which our boat touched, some thirty journalists were lying in wait, although we had done our best to travel secretly, and they only discovered our movements through the police. As the Japanese papers had refused to contradict the news of my death, Dora gave each of them a type-written slip saying that as I was dead I could not be interviewed. They drew in their breath through their teeth and said: 'Ah! veree funnee!'.
Source: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2
More info.:https://russell-j.com/beginner/AB23-120.HTM
<寸言>
ラッセルを日本に招聘するにあたっては、改造社の編集者である横関愛造が改造社を代表して交渉にあたりました。最初、改造社では、日本の大学でラッセルを招待するところはないだろうかと当たってみたところ、「何分にも社会改造論,非戦論などの看板を掲げた学者であっては,日本領土への上陸さえ許されぬだろうという見透しから,どこの大学でも敬遠されてしまった」とのことです。詳しく知りたい方は、横関氏のとても興味深い回想をお読みください。
【参照:横関愛造「日本に来たラッセル卿」/『日本バートランド・ラッセル協会会報n.2(1965年9月)』】
https://russell-j.com/YOKO-01.HTM
参考まで、「東京朝日新聞」(1921年7月17日付)の記事「渡来船上の病ラ博士-日本国民に謝意を通ぜよ(門司特電)」も転載しておきます。
「(英国に)帰国すべく北京を発したラッセル博士は、愛人ブラック女史と共に十六日朝、門司着、海路神戸へ向かったが、記者が朝日百万の読者を代表して、博士の来朝を心から歓迎する旨を通ずると、"卵色の背広服"に包んだ病躯を椅子から心持ち起こすようにして、「有り難う、貴紙を通じて全国民に宜しく伝えて戴きたい。」と述べ、日本では三箇月前に死を伝えられた私が、この外の何事も発表し得ないのを残念とする旨、簡単に口を噤み、ブラック女史も沈黙を守っていた。(門司特電)」
https://russell-j.com/cool/TA210717.HTM
記事中の「卵色の背広服」に興味を惹かれ、慶應の院生の時に、NHK放送資料センター(当時)で調査しました。その時、写真がファイルされたカードケースのようなもののなかに、その写真(カーキ色=黄色系のクリーム色,の背広を着たラッセル)を見つけました。多分日本の蒸し暑い夏にあわせた、麻の背広だったろうと思われます。
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