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バートランド・ラッセル 教育論 第2章_教育の目的(松下彰良 訳) - Bertrand Russell On Education, 1926

前ページ(Back)  次ページ(Forward) Chap. 2(第2章) Index Contents(目次)
* 英国のパブリック・スクールについて
* (ラッセル)「英国パブリック・スクールの評価


英国パブリック・スクールの欠点


あるいは
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 アーノルド博士の制度は,今日まで,イギリスのパブリック・スクールの多くで存続してきたが,別の欠点,即ち,貴族主義的という欠点を持っていた。その目的は - 国内であれ,大英帝国の遠隔地(僻地)であれ - 権威と権力のある地位につけるように人間を訓練することであった。貴族階級も,存続するためには一定の'徳目'を必要とする。それらの'徳目'は,学校で教え込まれた。(目指された)成果は,(生徒が)精力的で,禁欲的で,肉体的には健康で,一定の不変の信念と高い水準の正直さを持ち,貴族階級はこの世で重大な使命を持っていると確信を持つことであった(注:安藤訳では,「この教育の生み出す所産は,精力的で,禁欲的で,肉体的には健康で,あるゆるぎない信念を持ち,曲がったことが大きらいで,自分はこの世で重大な使命を持っていると確信している人間になるはずであった」となっているがわかりにくい。また,'it' は 'arisitocracy(貴族階級)' を指していると思われるがいかがであろうか?)。これらの成果は,驚くほど,達成された。(そして)知性は,それらの成果のために犠牲にされた。(なぜなら)知性は疑いを生むかもしれないからである。同情心も犠牲になった。(なぜなら)同情心は,劣等民族や劣等階級を支配するのを邪魔するかもしれないからである。優しさは強さ(たくましさ)のために,想像力は堅実さのために犠牲にされた。世界に変化というものがないとしたら,こうした教育の結果,スパルタ人の長所と短所を兼ね備えた'貴族階級'が永続していたかもしれない。しかし,'貴族主義'は時代遅れであり,'被支配民族'も,もはや,最高度に賢明で有徳な支配者にも'服従'しないであろう。(その結果)'支配者'は残忍な行為に駆り立てられ,残忍な行為はさらに'反乱'を助長する。複雑化する近代社会は,ますます'知性'を必要としているが,アーノルド博士は,知性を'徳目'のために犠牲にした。ワーテルローの戦い(注:The Battle of Waterloo ウォータローの戦い:1815年6月18日,イギリス・オランダ連合軍およびプロイセン軍が,フランス皇帝ナポレオン1世率いるフランス軍を破った戦い)は,イートン校の運動場(における訓練のおかげで)勝ち取られたのかもしれない。しかし,イギリス帝国も現在,その場所(イートン校の運動場=パブリック・スクールにおける訓練)で失われつつある。近代世界は,違ったタイプ(の人間)を必要としている。即ち,もっと想像力のある同情心ともっと'知的な柔軟さ'を持ち,ブルドック的な'蛮勇'をあまり信用せず,技術的な知識をもっと信用するタイプの人間が必要である。将来の統治者は,自由な市民への'奉仕者'であるべきであって,自分を崇拝してくれる人民の'慈悲深い支配者'であってはならない。イギリスの高等教育の一部となっている貴族主義の伝統は,イギリスに破滅をもたらすものである。この伝統は,しだいに取り除くことができるかもしれない。あるいは旧式の学校は時代に順応できないかもしれない。その点については,私はあえて意見を述べるつもりはない。

Chap. 2 The Aims of Education (OE02-070)

Dr Arnold's system, which has remained in force in English public schools to the present day, had another defect, namely that it was aristocratic. The aim was to train men for positions of authority and power, whether at home or in distant parts of the empire. An aristocracy, if it is to survive, needs certain virtues: these were imparted at school. The product was to be energetic, stoical, physically fit, possessed of certain unalterable beliefs, with high standards of rectitude, and convinced that it had an important mission in the world. To a surprising extent, these results were achieved. Intellect was sacrificed to them, because intellect might produce doubt. Sympathy was sacrficed, because it might interfere with governing 'inferior' races or classes. Kindliness was sacrificed for the sake of toughness; imagination, for the sake of firmness. In an unchanging world, the result might have been a permanent aristocracy, possessing the merits and defects of the Spartans. But aristocracy is out of date, and subject populations will no longer obey even the most wise and virtuous rulers. The rulers are driven into brutality, and brutality further encourages revolt. The complexity of the modern world increasingly requires intelligence, and Dr Arnold sacrificed intelligence to 'virtue'. The battle of Waterloo may have been won on the playing fields of Eton, but the British Empire is being lost there. The modern world needs a different type, with more imaginative sympathy, more intellectual suppleness, less belief in bull-dog courage and more belief in technical knowledge. The administrator of the future must be the servant of free citizens, not the benevolent ruler of admiring subjects. The aristocratic tradition embedded in British higher education is its bane. Perhaps this tradition can be eliminated gradually; perhaps the older educational institutions will be found incapable of adapting themselves. As to that I do not venture an opinion.

Sacrifice - Accepting the burdens of a great position
(出典:B. Russell's The Good Citizen's Alphabet, 1953)

(掲載日:2006.11.29 更新日:)