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『ラッセル自伝』(松下彰良・訳)

The Autobiography of Bertrand Russell, v.2

前ページ 次ページ v.2,chap.1 (The First War) 目次 Contents (総目次)
* 由良君美「平和論をめぐるラッセル,ロレンス,ヒューム」
* ラッセル「D.H.ロレンスについて」
* 大竹勝「ラッセルと文学者たち」

第一章 第一次世界大戦

 ロレンスは世の中をよりよくしたいとは実際にはまったく望んではおらず,ただ単に世の中がいかに悪いかについて雄弁に独白することにふけっているにすぎない,ということがしだいにわかってきた。もし誰かがその独白(独り言)を立ち聞きすれば,その分だけましではあるが(聞いてもらえるだけよいだろうが),それらの独白は,せいぜい(米国の)ニュー・メキシコ州の砂漠に坐って,聖人気分にひたることのできる一握りの忠実な信徒をつくり出すことを意図したものであった(注:妻フリーダは敵国ドイツの人間であり,彼女は迫害を受けたために,ロレンス夫妻は1919年に英国を離れ,以後,欧州各地・オーストラリア・メキシコ・米国ニュー・メキシコなどに長期滞在した。)。すべてこうしたことが,'私(=ラッセル)が説教しなければ「ならない('must')」こととして' −−この'must'には,13本のアンダーラインが付されていた−− ファシストである独裁者が使う言葉で,私に伝えられた。
 ロレンスからの手紙はしだいに敵対的なものになっていった。彼は次のように書いた。
「あなたが営んでいるような生活は何かよいことがあるのか? あなたの講義(講演)はよいとは思わない。余分なことだ。そう思わないか? '呪われた船'の中に留まって,商人の巡礼者に対し,彼ら特有の用語で熱弁をふるったところで何になるというのか。あなたはどうして下船してしまわないのか。どうしてそのような見せ物<(虚飾)の一切から手をひいてしまわないのか。人は,今日では,教師でも説教者でもなく,'無法者'にならなければならない。
 これは,私には,単なる修辞(レトリック)であると思われた。私は,彼以上に'無法者'になりつつあったので,彼が私について不平をいう根拠がまったくわからなかった(注:ラッセルは反戦運動のために,第一次世界大戦中に刑務所に5ケ月ほど収監された)。彼は自分の不平を,様々な時に,様々な方法で表現していた。別の機会に,彼は私宛の手紙に次のように書いた。
「働くことや執筆することは一切止め,機械的な'道具'にならないで,'人間'になりなさい。すべての社会の'船'から下船しなさい。まさに君のプライドのため,単に無名になりなさい,モグラになりなさい,手探りで進み,考えない'人間'になりなさい。お願いだから,赤ん坊であってくれ。もうこれ以上,学者であるのはやめなさい。もう,行うことはいっさいやめて,お願いだから'存在(実存)する'ことを始めてくれ。まさに出発点からスタートして,完全な赤ん坊になってくれ,勇気を出して。」

「ああ,そうだ。あなたにお願いが一つある。あなたが遣言をするとき,私に十分生活していけるだけのお金を残してほしい。私は,あなたが永遠に生きることを望む。しかし,幾分かは,私をあなたの遺産相続人にしてほしい。」
 この計画の唯一の困難は,たとえこの計画を採用するとしても,私には(既に)遺産として残せる物はなにもないだろうということであった。

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Gradually I discovered that he had no real wish to make the world better, but only to indulge in eloquent soliloquy about how bad it was. If anybody overheard the soliloquies, so much the better, but they were designed at most to produce a little faithful band of disciples who could sit in the deserts of New Mexico and feel holy. All this was conveyed to me in the language of a Fascist dictator as what I must preach, the 'must' having thirteen underlinings.
His letters grew gradually more hostile. He wrote, 'What's the good of living as you do anyway? I don't believe your lectures are good. They are nearly over, aren't they ? What's the good of sticking in the damned ship and haranguing the merchant pilgrims in their own language? Why don't you drop overboard? Why don't you clear out of the whole show? One must be an outlaw these days, not a teacher or preacher.' This seemed to me mere rhetoric. I was becoming more of an outlaw than he ever was and I could not quite see his ground of complaint against me. He phrased his complaint in different ways at different times. On another occasion he wrote: 'Do stop working and writing altogether and become a creature instead of a mechanical instrument. Do clear out of the whole social ship. Do for your very pride's sake become a mere nothing, a mole, a creature that feels its way and doesn't think. Do for heavens sake be a baby, and not a savant any more. Don't do anything more - but for heavens sake begin to be - Start at the very beginning and be a perfect baby: in the name of courage.
'Oh, and I want to ask you, when you make your will, do leave me enough to live on. I want you to live for ever. But I want you to make me in some part your heir.' The only difficulty with this programme was that if I adopted it I should have nothing to leave.
(掲載日:2006.04.21/更新日:2011.7.1)