* H. G. ウェルズについて
ウェッブ夫妻がひどく嫌っていた人たちがいた。彼らは,H. G. ウェルズ(Herbert George Wells, 1866-1946/話題の映画「宇宙戦争」の原作者)を憎んだが,それは,ウェルズがウェッブ夫人の厳格なヴィクトリア朝風の倫理にけちをつけたからであり,また,シドニー・ウェッブがフェビアン協会を支配しているのを,彼が排除しようとしたからであった。 ウェッブ夫妻は,ラムゼイ・マクドナルド(Ramsay MacDonald, 1866-1937/労働党が初めて政権をとった時の英国首相/右写真)をごく早い時期から嫌っていた。夫妻のどちらかがマクドナルドについて語っているのを聞いた言葉のなかで,最も敵意が少なかったのは,第一次労働党政府ができた時(1924年)であり,その時ウェッブ夫人は,マクドナルドは指導者の代理としてはたいへん良い,という発言であった。 ウェッブ夫妻の政治的経歴は大変興味深い。当初は,アーサー・バルフォア(Arthur Balfour,1848-1930/1902年に英国首相。1917年に出されたバルフォア宣言で有名/右写真)が,キリスト教会附属学校に対する公金補助を進んで増額しようとしていることでウェッブ夫人は満足し,保守党に協力していた1906年に保守党政権が倒れると(注:1906年,ケア・ハーディによる労働党政権誕生),ウェッブ夫妻は,自由党と協力しようとする動きを少し見せたが,あまり効果的なものとはならなかった。しかし,彼らは,最後には,社会主義者として労働党にいる時により居心地良く感じるようになり,晩年は忠実な労働党員となった。 数年の間,ウェッブ夫人は,一部は健康上の,また一部は宗教上の動機から,断食に熱中していた。彼女はいつも朝食をとらず,また,非常に貧弱な夕食しかとらなかった。しっかりした食事は,昼食のみであった。彼女は,ほとんどいつも,多くの著名人をランチに招待していたが,彼女は空腹のため,食事の用意ができたと告げられるや否や,招待客の誰よりも先に席につき,食事をとり始めた。にもかかわらず,彼女は,飢餓(状態)は自分をより精神的にすると信じており,飢餓(状態)はきわめて素晴らしい想像力を与えてくれると,かつて,私に語ったことがある。その時私はこう応えた。「ええ。あなたは,ほとんど食事をしなければ'理想郷'を見る。しかし飲みすぎると蛇を見る。」 私の発言を,彼女は許しがたいほど軽率な発言と受け取ったようである。ウェッブ夫人の性格のなかの宗教的な側面は,シドニー・ウェッブにはなかった。しかしそれはいくらか彼には迷惑なことはあったにもかかわらず,彼はそれに対しまったく敵意を持っていなかった。 ウェッブ夫妻とフランスのノルマンディーのあるホテルに一緒に滞在していた時,夫人は,私たちが朝食事をしている痛々しい光景に耐えられなかったため,いつも朝は2階にいたままであった。けれども,シドニーはいつも,ロール・パンとコーヒーをとりに1階に下りてきた。宿泊した最初の朝,ウェッブ夫人は,「シドニーの朝食用のバターが,'私たちには',ありません。」といったメッセージを女中にもたせてよこした。彼女が「私たち」という言葉を使うのは,夫妻の友人たちにとって楽しみの1つであった。 |
Their political history was rather curious. At first they co-operated with the Conservatives because Mrs Webb was pleased with Arthur Balfour for being willing to give more public money to Church Schools. When the Conservatives fell in 1906, the Webbs made some slight and ineffectual efforts to collaborate with the Liberals. But at last it occurred to them that as socialists they might feel more at home in the Labour Party, of which in their later years they were loyal members. For a number of years Mrs Webb was addicted to fasting, from motives partly hygienic and partly religious. She would have no breakfast and a very meagre dinner. Her only solid meal was lunch. She almost always had a number of distinguished people to lunch, but she would get so hungry that the moment it was announced she marched in ahead of all her guests and started to eat. She nevertheless believed that starvation made her more spiritual, and once told me that it gave her exquisite visions. 'Yes,' I replied, 'if you eat too little, you see visions ; and if you drink too much, you see snakes,' I am afraid she thought this remark inexcusably flippant. Webb did not share the religious side of her nature, but was in no degree hostile to it, in spite of the fact that it was sometimes inconvenient to him. When they and I were staying at a hotel in Normnandy, she used to stay upstairs in the mornings since she could not bear the painful spectacle of us breakfasting. Sidney, however, would come down for rolls and coffee. The first morning Mrs Webb sent a message by the maid, 'We do not have butter for Sidney's breakfast'. Her use of 'we' was one of the delights of their friends. |
(掲載日:2005.07.07/更新日:2011.2.18)