人間は、情熱的で、頑固で、かなり気狂いじみている。 その狂気によって、自分自身にも、他人にも、甚大になる可能性のある災難をもたらす。 しかし、衝動に駆られる生活は危険ではあるが、人間の生存がもしその独特の特徴(savour:香り・匂い・味わい)を失うべきでないとすれば、それ(衝動の生活)は保存されなければならない。衝動(の発散)と抑制の両極の間で、人間が幸福に生き得ることのできる倫理(ethic)は、ひとつの中間点を見出さなくてはならない。人間の本性の奥にこのような葛藤があればこそ、倫理学(ethics)の必要性が生じるのである。
Men are passionate, headstrong, and rather mad. By their madness they inflict upon themselves, and upon others, disasters which may be of immense magnitude. But, although the life of impulse is dangerous, it must be preserved if human existence is not to lose its savour. Between the two poles of impulse and control, an ethic by which men can live happily must find a middle point. It is through this conflict in the inmost nature of man that the need for ethics arises.
Source: Bertrand Russell: Bertrand Russell: Human Society in Ethics and Politics, (1954), introduction
More info.:https://russell-j.com/cool/47T-introduction-02.htm
<寸言>
この段落には"ethic"(倫理)と"ethics"(倫理学)が同時に出てきますので、"ethic"と"ethics"の意味をを混同する人はあまりないと思われます。
しかし、"ethics"を「倫理」と訳してしまうことはよく見られます。ラッセルのこの著書 Human Society in Ethics and Politics, 1954 の訳者(勝部真長氏/訳書は玉川大学から出版)でさえ、上記の訳では訳しわけていますが、別のところでは"ethics"を「倫理」と訳してしまっているところがあります。(同様に、"politics"には「政治」という意味以外に、「政治学」という意味もあります。)
この本の訳書名として、『倫理と政治における人間社会』としているものが多いですが、訳者の勝部氏は、本書の趣旨を理解して、訳書名を『ヒューマン・ソサエティ-倫理学から政治学へ』としています。
ラッセルは、倫理及び倫理学は知識論の対象に含めることは困難だとして、Human Knowledge, 1940(翻訳書:『人間の知識』)に含めることを断念しました。そうして、倫理及び倫理学の問題を本格的に扱っているのが、この Human Society in Ethics and Politics, 1954 です。
"ethics"を「倫理」と訳されていても誤訳と気づけない日本語訳も多いので、特に、ラッセルの場合は要注意です。
https://russell-j.com/beginner/sp/BR-KAKUGEN136.HTM
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