ラッセル英単語・熟語1500 |
「地球の衛星」と「月」とを同一視することが不適切であることは、一度指摘されれば容易に理解される。「地球の衛星」という句は、たとえ第二の衛星が発見されても、その意味を変ずることはないであろう。それはまた、天文学を理解するが地球が衛星を持つことを知らないような人にとっても、無意味ではないであろう。これに反して、月についての陳述は、-「月」という語を固有名ととってよいのなら、月を承知している者以外の人々にとっては、無意味である。そういう人々にとっては、「月」という語は、それが「地球の唯一の衛星」という句と同等であるいう説明が与えられなければ、無意味な雑音であろう。
The impropriety of identifying ‘Satellite of the Earth' with the Moon is easily seen when it has once been pointed out. The phrase,‘Satellite of the Earth', would not alter its meaning if a second satellite were discovered; nor would it be destitute of meaning for a person who understood astronomy but did not know that the Earth had a satellite. Statements about the Moon, on the other hand, if we may take ‘The Moon' as a name, are meaningless except to those who are aware of the Moon.
Source: My Philosophical Development, 1959, by Bertrand Russell
More info.: https://russell-j.com/beginner/BR_MPD_06-040.HTM
<寸言>
「一つの要素(member 成員)から成る集合(class)はその一つの要素(成員)と同一のものではない」という認識から、新しい論理学(数理論理学/記号論理学)の進歩が始まりました。
我々は「月(the moon)」という言葉を知っているのでこの区別の重要性をすぐに理解できないかも知れないですが、たとえば、「月」の代わりに「ヘベレケポンポン」という言葉に変えれば、「ヘベレケポンポン」が「月」を意味することを知っている人は理解できますが、知らない人は理解できません。それに対して、「地球の衛星」とか「木星の衛星」という時の「衛星」は固有名ではないため、(理解していなかったとしても)無意味なものではありません。
そうして、集合全体と集合の要素とははっきりと区別をしないと論理的矛盾(パラドクス)が生じてしまいます。
#バートランド・ラッセル #Bertrand_Russell