バートランド・ラッセルの名言・警句( Bertrand Russell Quotes )

ラッセル英単語・熟語1500

 <『拝啓ラッセル様』から>
'・・・。同封した論文は、人間の問題解決過程のコンピュータ・シミレーションにおいて我々がいかに進歩したかを示すものです。・・・。我々は問題解決能力において、かなり顕著な改善をとげており、・・・ある問題においては、このコンピュータは、『プリンキピア・マテマティカ』のなかのはるかに複雑な証明(法)にとってかわる、より美しくかつ単純な証明(法)を生み出しています。・・・。コンピュータは、その証明(法)をみつけるのに5分もかかりませんでした。
 これらの事実を、生徒に知らせるべきかどうか、私にはよくわかりません。あなたはまた、博識な人間と賢者とは必ずしも同一ではないということを示している我々のこの論文の証拠に興味をもたれることと思います。

(ラッセルからの返事・1957年9月21日付)
 拝啓 サイモン教授
 お手紙と同封の論文、たいへんありがとうございます。(あなたの)コンピュータのほうがホワイトヘッドや私よりも優れているという実例を示してくださりうれしく思います。こうした事実は生徒達には隠しておくべきだとのあなたが考える理由はよくわかります。コンピュータのほうが生徒よりずっと立派に計算できるということを彼らが知ったら、生徒達が計算の仕方を学ぶことをどうして期待できるでしょうか。またあなたが「知恵は博識と同一ならず」という古い諺を精確に証明してくださり、嬉しく思いました。
 敬具 バートランド・ラッセル


'The enclosed [paper] will indicate our progess in simulating human problem-solving processes with a computer ... we obtain rather striking improvemnets in problem-solving ability ... in one case [the machine] created a beautifully simple proof to replace a far more complex one in [Principia]. ... The machine required something less than five minutes to find the proof. I am not sure that these facts should be made known to schoolboys. You may also be interested in the evidence of our paper that the learned man and the wise man are not always the same person....'

Dear Professor Simon, (September 21, 1957)
Thank you very much for your letter, and for the enclosure. I am delighted by your example of the superiority of your machine to Whitehead and me. I quite appreciate your reasons for thinking that the facts should be concealed from schoolboys. How can one expect them to learn to do sums when they know that machines can do them better? I am also delighted by your exact demonstration of the old saw that wisdom is not the same thing as erudition.
Yours sincerely
Bertrand Russell
Source: Dear Bertrand Russell, 1969
More info.: https://russell-j.com/beginner/DBR4-45.HTM

<寸言>
 ラッセルの原著には Prof. Simon としか書かれていません。きっとコンピュータ科学の著名な人物だろうとの仮定のもと、Google で検索してみました。ラッセルの返事が1957年(ラッセル85歳)というのも手がかりとなりました。

 まず、ハーバート・サイモン教授(1916-2001)ではないかとあたりをつけました。ウィキペディアの説明には、サイモン教授はアメリカの政治学者・認知心理学者・経営学者及び情報科学者であると書かれていました。1978年にはノーベル経済学賞も受賞しており、研究範囲がとても広い研究者だとわかりました。
 略歴を見ると、「1955年 カーネギーメロン大学のコンピューター・サイエンスと心理学の教授となる」と書かれており、これは間違いないだろうと思われました。そうして、ウィキペディアの Logic Theorist (日本語ページ)の以下の説明で、100%確証されました。即ち、

「Logic Theorist は、1955年から1956年にかけてアレン・ニューウェル、ハーバート・サイモン、J・C・ショーが開発したコンピュータプログラム。人間の問題解決能力を真似するよう意図的に設計された世界初のプログラムであり、「★世界初の人工知能プログラム」と称された。ホワイトヘッドとラッセルの『プリンキピア・マテマティカ』の冒頭の52の定理のうち38を証明してみせ、一部については新たなもっと洗練された証明方法を発見している」。
  Google 様様です。

 因みに、ハーバート・サイモン教授は1979年に慶應義塾大学の三田キャンパスで「認知科学の誕生」という演題で講演していることもわかりました(司会は、後に慶應の塾長となった安西祐一郎氏)。面白い内容ですので、興味のある方はお読みになってください。 https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/foreign-visitors/201706-1.html
 最初の部分を少しだけ引用しておきます。

「サイモン博士は様々な学問領域に関与しているが、一貫して「人間はどうやって問題を解決するのか」ということを追究していた。そして1950年代に、「どんな問題でも解決できるシステム」(General Problem Solver)を発表して当時の研究者たちの度肝を抜いた。あらゆる問題を、多数の候補の中からひとつの正解を見つける「探索問題」と置き換え、そのための汎用のコンピュータプログラムを提案したのである。つまり、世の中のどんな問題であっても、きちんと定義さえできれば、このプログラムを用いて解を見つけることができることになる。・・・」

 
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