(エッセイ) 三浦俊彦「マイ・ロングセラー③: 中城健『ウルトラQ』」
* 出典:『読売新聞』2002年8月31日付夕刊掲載
* 中城健『ウルトラQ』(朝日ソノラマ)について
マイ・ロングセラー ①へ、②へ
墨流し模様の背景が、軋むような怪音とともに左右対称に回転し、「ウルトラQ」の文字が中央に復元される。これが原体験となった人とそうでない人とは、永遠に別の世界の住人ではなかろうか。
昨年発売されたDVDを全巻そろえて繰り返し観ているのだが、鮮烈な映像には改めて身震いする。記録映画めいたモノクロの迫力。マンモスフラワーが開花し風船怪獣バルンガが低空漂うビル街や、パトカーの追跡を駿足で振り切るケムール人の高笑いが響く夜道には、一九六〇年代の日本資本主義の情緒が甘美なまでに漂っている。
六六年のテレビ初放映と同時進行で、中城健のマンガが『少年ブック』に掲載された。「キックの鬼」「カラテ地獄変」など格闘技劇画で知られる中城健が、当時はいかにも漫画漫画した絵を描いていたというのが面白い。
テレビ版とは設定やストーリーが微妙に違っているのも注目だ。各話には何種類かのシナリオが並存していたと言われ、放映されなかった案が垣間見られるようで楽しい。例えば「206便消滅す」は、超音速旅客機が異次元空間に不時着、巨大セイウチに襲われながら間一髪脱出するという、ストーリーだけみれば単純な話。これが中城版では、燃料欠乏で離陸できない窮地を、真後ろに迫った巨大セイウチの体にジェット噴射を当てて反動で飛び立つ、という形で解決する。音と動きに頼れない紙上の物語ならではの技巧が随所に見られるのだ。
ウルトラQ28話全部を小説化するという、小学生の頃からの野望を私は捨てていない。ただし今のままでは、映像を忠実に文章化して終わってしまいそう。中城版を越えるデフォルメと創意を施すには、テレビドラマの強烈な魔力から少しでも身を振りほどくことが先決のようだ。