第6章 決定論 n.10 - 1ペニー硬貨を投げると・・・このような議論(論証)によって提起されている問題(問い)は,原子とは特別な関係を持たないものであり,その問題について考える際,我々の心の中から量子力学に関するあらゆるややこしい事柄(complicated business)を放逐しても(dismiss from)よいだろう。その代りに(原子の代わりに)1ペニー硬貨を投げるというお馴染みの操作(operation)を取り上げてみよう(the familiar operation of tossing a penny)。我々はその1ペニー硬貨の回転は力学の法則によって決定されており,厳密な意味で,硬貨の表が出るか裏が出るか(heads or tails)を決めるのは「偶然」ではないと確信している(参考:EXILE / Heads or Tails (Music Video))。しかし,その計算は我々にとってはとても複雑なので,任意の場合において,どちらが出るか(表がでるか裏が出るか)我々には分らない。もしあなたが1ペニー硬貨を非常に多くの回数投げたなら -私はこれまでその充分な実験的証拠を見たことは全くないが- 裏が出るのと同じくらいの頻度で表が出ると言われている。さらに,このことは確実ではないが極めて起こりそうなことである(確からしい/確率が高い)とだけ言われている。あなたが1ペニー硬貨を10回投げ続けて,10回とも表が出ることもあるかも知れない。10回の硬貨投げを1024回(注:従って投げる総回数は10240回)繰り返してやり,その中で一度だけ表が10回出続けることは驚くことではないだろう。(注:荒地出版社刊の津田訳ではこの箇所はあいまいな訳になっている。)しかし,もっと何度も繰返したら,表だけが続けて出る回数はもっとずっと稀になっていく(注:言うまでもなく,そういう例は増えていくが、全体のなかでの頻度/割合は減っていくので「稀になっていく」ということ)。もしあなたが1ペニー硬貨を 1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000 回も投げたとしても,100回続けて表が出るのが一度得られれば、あなた運が良いであろう(注:連続1,000回表が出続けるのはもっと稀になる)。少なくとも,理論はそういうことであるが,人生は短く,それを経験的に試すことはできない。量子力学が発見されるずっと以前から,すでに統計的な法則は物理学において重要な役割を果していた。たとえば,気体(ガス)はあらゆる方向に多様な速度でランダムに動いている膨大な数の分子で成り立っている。(分子の)平均速度が大きい時にはその気体(ガス)は熱く,小さい時にはその気体(ガス)は冷たい。全ての分子が静止している時には気体(ガス)の温度は絶対零度である。分子は常に相互に衝突し合っているということのために,平均速度よりも速く動いている分子(衝突により)は速度が低下し,遅く動いている分子は(衝突により)速度が速まる。これが,もし異なった温度の二つの気体(ガス)が接触すれば,両方の気体が同一の温度になるまで,冷たい方(の気体)は暖かくなり,温かい方(の気体)は冷たくなる理由であるしかし,このようなことは全て起こりそうなことである(起こる確率が高い)ということに過ぎない。最初は(部屋全体に渡って)同じ温度にあった室内において,速く動く分子は全て(部屋の)一方の側に集まり,ゆっくり動く分子は全て(部屋の)反対側に集まるかも知れない。そのような場合,何らか外的な原因が働かない限り,部屋の片側は冷たくなり,部屋の反対側は暑くなる。さらに,空気の全てが部屋の一方(片側)に集まり,(部屋の)反対側の半分が空になる(気体がなくなる)ことさえ起るかも知れない。このようなことは,分子の数が秘めて大であるから,コインが100回続けて表が出ることより確率は甚だしく少ないが,厳密に言えば,不可能なことではない。 |
Chapter 6: Determinism, n.8
Long before quantum mechanics were invented, statistical laws already played an important part in physics. For instance, a gas consists of a vast number of molecules moving at random in all directions with varying speeds. When the average speed is great, the gas is hot ; when it is small, the gas is cold. When all the molecules stand still, the temperature of the gas is the absolute zero. Owing to the fact that the molecules are constantly bumping into each other, those that are moving faster than the average get slowed down, and those that are moving slower get speeded up. That is why, if two gases at different temperatures are in contact, the colder one gets warmer and the warmer one gets colder until they reach the same temperature. But all this is only probable. It might happen that in a room originally at an even temperature all the fast-moving particles got to one side, and all the slow-moving ones to the other ; in that case, without any outside cause, one side of the room would get cold and the other hot. It might even happen that all the air got into one half of the room and left the other half empty. This is vastly more improbable than the run of 100 heads, because the number of molecules is very great ; but it is not, strictly speaking, impossible |