第9章 世論に対する力(世論に対する影響力) n.5 - 満足させることのできる欲求
このような例から,理性一般の力について,何らかのことを学ぶことができそうである。科学の場合において,理性が偏見に打ち勝ったのは,科学が現在の(諸)目的を実現する手段を提供したからであり,また,科学がそれらの目的を成し遂げたという証拠が圧倒的だったからである。理性には人間に関する(諸)問題においては力を有していないと主張する人々は,この二つの事情(conditions)を見落している。もし,あなたが,理性の名において,ある人に彼の根本的な目的を変えよと命ずるならば -たとえば,自分自身の権力の追求よりもむしろ一般の幸福(例:国民全体の幸福)を追求せよというようなことを命ずるならば- それは失敗に終わるであろうし,また失敗するのは当然であろう。なぜなら,理性だけでは人生の目的を決めることはできないからである。それにまた,もし深く根をおろした世の中の偏見を攻撃する際に,あなたの議論(論拠)に疑問の余地があったり,あるいは,議論(論拠)がとても理解が困難で,科学者にしかその議論(論拠)のもつ力がわからないというような場合にも,同様に失敗に終わるだろう。しかし,あなたが,(提示される)証拠を吟味する手間を厭わないような分別のある人の全て(every sane man)を証拠によって,現在の(諸)欲求の満足を容易にする手段をあなたが持っているということを証明できれば,あなたは一定程度の自信を持って,人々は最後にはあなたの言うことを信じるだろうと思ってよいであろう。これには,もちろん,あなたが満足させることのできる現在の欲求とは,権力をもっている者あるいは権力を持つことができる者の欲求である,という但し書きが必要である。(注:説得しようとする人間の欲求が権力者の「根本的欲求」と同じになる時に力を発揮する)
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Chapter IX: Power Over Opinion, n.5
From this example, something may be learnt as to the power of Reason in general. In the case of science, Reason prevailed over prejudice because it provided means of realizing existing purposes, and because the proof that it did so was overwhelming. Those who maintain that Reason has no power in human affairs overlook these two conditions. If, in the name of Reason, you summon a man to alter his fundamental purposes -- to pursue, say, the general happiness rather than his own power -- you will fail, and you will deserve to fail, since Reason alone cannot determine the ends of life. And you will fail equally if you attack deep-seated prejudices while your argument is still open to question, or is so difficult that only men of science can see its force. But if you can prove, by evidence which is convincing to every sane man who takes the trouble to examine it, that you possess a means of facilitating the satisfaction of existing desires, you may hope, with a certain degree of confidence, that men will ultimately believe what you say. This, of course, involves the proviso that the existing desires which you can satisfy are those of men who have power or are capable of acquiring it.
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