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バートランド・ラッセル 自伝 第2巻第1章 - 人間性の名誉のために(松下彰良 訳) - The Autobiography of Bertrand Russell, v.2

前ページ 次ページ v.2,chap.1 (The First War) 目次 Contents (総目次)
* ラッセル「郷土愛と愛国心」

(第一章 第一次世界大戦)


Bertrand Russell Quotes 366
 このような最中,私は自分の愛国心によってひどく苦しめられた。マルヌの戦い(第一次世界大戦初期の1914年9月5~12日,フランスのマルヌ河畔で行われた独仏の戦いでフランスが勝利した。)以前の,ドイツの数々の成功(勝利)は,私にとって,大変恐ろしいものであった。私は,いかなる退役した陸軍大佐にもおとらないくらい熱烈に,ドイツの敗北を願った。(母国)英国に対する愛情は,私のもっている感情のなかで最も強いものであるといってよいが,そのため,そのような時期において,愛国心が沸いてきたらそれをわきに追いやるという,困難な自制の努力をしていた。それにもかかわらず,私は何をなさなければならないかということについて,一瞬たりとも疑いを持たなかった。私は,大戦以前には,時々懐疑主義に陥って無力になったり,時々冷笑的になったり,それ以外の時には無関心になったりしたが,第一次大戦が勃発した時には,あたかも神の声を聞いたかのように感じた。私の抗議がどんなに無益なものであろうとも,戦争に抗議することは私の役割(責務)であると理解していた。私の人間としての全ての本質が関係していた。(第一に)真理を愛するものとして,全交戦国の(自国本位の)>国家宣伝にむかむかさせられた。(第二に)文明を愛するものとして,野蛮への復帰にぞっとさせられた。(第三に)若者たちに対する親としての感情を損なわれたものとして,青年に対する大虐殺に心を苦しめた。(第一次)大戦に反対しても,自分にとって良いこと(自分の利益になること)はほとんど出てこないだろうと思ったが,人間性の名誉のために,少なくとも足下をすくわれていない人々は,しっかりと(自分の足で)立っていることを示すべきであると思った。
 軍用列車(troop trains)がウォータールー駅から出発するのを見てからというもの,この世に実在しない街として,ロンドンの不思議な幻影を持つようになった。橋は倒壊して水没し,偉大な大都会全体が朝霧のように消えてゆく,といった光景がよく心に浮かんできた。ロンドンの往民たちは幻覚であるように思われ始め,自分が生活してきたと考えていた世界は,単に熱病が原因の悪夢が生み出したもの(幻覚)にすぎないのではないか,と疑った(ラッセル注:私はこの話を T.S.エリオットに語り,そうして彼はそれを彼の詩 The Waste Land にとりいれた。/松下注:「荒地」は,ノーベル文学賞受賞作)しかしながら,そのようなムードにひたったのは短期間であり,活動の必要によって,終止符がうたれた。
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Source: Google Satelite, c.2011
In the midst of this, I was myself tortured by patriotism. The successes of the Germans before the Battle of the Marne were horrible to me. I desired the defeat of Germany as ardently as any retired colonel. Love of England is very nearly the strongest emotion I possess, and in appearing to set it aside at such a moment, I was making a very difficult renunciation. Nevertheless, I never had a moment's doubt as to what I must do. I have at times been paralysed by scepticism, at times I have been cynical, at other times indifferent, but when the War came I felt as if I heard the voice of God. I knew that it was my business to protest, however futile protest might be. My whole nature was involved. As a lover of truth, the national propaganda of all the belligerent nations sickened me. As a lover of civilisation, the return to barbarism appalled me. As a man of thwarted parental feeling, the massacre of the young wrung my heart. I hardly supposed that much good would come of opposing the War, but I felt that for the honour of human nature those who were not swept off their feet should show that they stood firm. After seeing troop trains departing from Waterloo, I used to have strange visions of London as a place of unreality. I used in imagination to see the bridges collapse and sink, and the whole great city vanish like a morning mist. Its inhabitants began to seem like hallucinations, and I would wonder whether the world in which I thought I had lived was a mere product of my own febrile nightmares.(I spoke of this to T. S. Eliot, who put it into The Waste Land) Such moods, however, were brief, and were put an end to by the need of work.
(掲載日:2006.03.26/更新日:2011.6.18)