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バートランド・ラッセル自伝 第1巻第1章 アガサ叔母さんの想い出(松下彰良・訳)- The Autobiography of Bertrand Russell, v.1

前ページ 次ページ 第1巻 第1章(幼少時代)累積版 総目次
写真:ラッセルとアガサ叔母さん (出典:R. Clark's B. Russell and His World, 1981.)


 彼女(アガサおばさん)は独身のままであった。一度ある牧師補(副牧師)と婚約したが,婚約中に彼女は病的な妄想をわずらい,破談になった。(その後)彼女はすごく'けちん坊'になり,大きな家に住んでいたが,石炭を節約するためにごく少数の部屋しか使わず,また同じ理由で週に一度しか入浴しなかった。彼女は厚いウールのストッキングをはいていたが,いつもくるぶしのところまでずり落ちしわくちゃになっていた。そうしてたいていの時,特定の人たちの極めて善いところと,特定の他の人たちの極めて悪いところを,感傷的に話していたが,どちらも想像上のものにすぎなかった。兄の場合も私の場合も両方ともそうであったが,私たちがそれぞれ妻と一緒に暮らしている間中,彼女は私たちの妻を憎んだ。しかし後になって,彼女たちを愛してくれた。私が初めて二人目の妻(注:ドーラ)をつれていって彼女に会わせた時,彼女は私の最初の妻(注:アリス)の写真を暖炉の上に置いて,二人目の妻に向かって次のように言った。
「私はあなたにお会いして,どうしても愛しいアリスのことを思わないでいられません。それに,もし万一バーティ(注:ラッセルの愛称)があなたを捨てるようなことがあったら一体どんなことになるかと思わざるをえません。そんなことは神がお許しにはならないでしょうが。」
 ある時,兄が彼女に次のように言った。
「おばさん,あなたはいつも陰の妻なんですね」
 これを聞き,彼女は怒ることなく,大笑いし,(その後)誰かれとなく繰り返しそのことを話した。彼女を感傷的で弱弱しいと思っていた人々は,突如として'鋭敏さ'とウイットがとび出してきた時には,驚かされがちであった。彼女は祖母の高潔さの犠牲者であった。もし彼女が,セックスは邪悪なものだと教えこまれていなかったら,幸福になれただろうし,うまくいっただろうし,またその能力をもっていたと思われる。
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She remained unmarried, having once become engaged to a curate and suffered from insane delusions during her engagement, which led to its being broken off. She became a miser, living in a large house, but using few of the rooms in order to save coal, and only having a bath once a week for the same reason. She wore thick woollen stockings which were always coming down in rumples over her ankles, and at most times talked sentimentally about the extreme goodness of certain people and the extreme wickedness of certain others, both equally imaginary. Both in my brother's case and in mine, she hated our wives so long as we lived with them, but loved them afterwards. When I first took my second wife to see her, she put a photograph of my first wife on the mantelpiece, and said to my second wife: 'When I see you I cannot help thinking of dear Alys, and wondering what would happen should Bertie desert you, which God forbid.' My brother said to her once : 'Auntie, you are always a wife behind.' This remark, instead of angering her, sent her into fits of laughter, and she repeated it to everybody. Those who thought her sentimental and doddering were liable to be surprised by a sudden outburst of shrewdness and wit. She was a victim of my grandmother's virtue. If she had not been taught that sex is wicked, she might have been happy, successful, and able.