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バートランド・ラッセル『権力』(松下彰良・対訳)

* 原著:Power; a new social analysis, by Bertrand Russell (London; George Allen & Unwin, 1938)<

総目次

第6章 むきだしの権力 イントロ累積版

  1. 伝統的権力を支えてきた信念や習慣が廃れるにつれて,伝統的権力は何らかの新しい信念に基づく権力に,あるいは,「むきだしの」権力,即ち,臣民(被支配者)が決して黙従しない権力に,しだいに屈してゆく。

  2. 軍事的征服によって授けられた権力は,多かれ少なかれ時を経るに従って,単なる軍事的な(性格をもった)権力であることをやめる(~でなくなる)ことがよくある。

  3. むきだしの権力は - 外国による征服に服従したがそれは最近のことではない共同体の内政において (not lately submitted)- 次のような二つの異なる状況の時に現れる(生ずる)。

  4. ギリシアの歴史は,政治的権力の研究者にとって非常に興味のある小規模な実験を,実験室におけるように(実験室に自分がいるように),たくさん与えてくれる(提供してくれる)。

  5. 「僭主(僭王)」という言葉は,もともと(語源的に),支配者の悪い性質(資質)を(暗に)意味していたものではなく,ただ法律上あるいは伝統的な称号を欠いているということを(暗に)意味していたにすぎない。

  6. 専制政治(古代ギリシアの僭主政治)の初期の時代は,鋳造硬貨(coinage)が使われ始めた時代であり,これは,金持の権力を増大させる上において、近年の信用(credit)と紙幣が与えたものと同様の影響(効果)を与えた

  7. あらゆる人が富裕であことが可能であるかぎり,伝統の力の弱体化は,害よりもむしろ益をもたらした。

  8. グロウトは次のように言っている。
  9. そうして(このようにして)ディオニシウスは僭主となった。
  10. ギリシア史は,スパルタは例外として,古代ギリシアにおいては伝統の影響が驚くほど弱いという点で特異である。

  11. かつては,ギリシアの独立が失われたことを嘆き悲しみ,ギリシア人は皆ソロンやソクラテス(のような人たちばかりであった)と考えるのが,普通であった。

  12. アガソクレス(注:シチリアの王)は卑しい生れで,陶工(焼物職人)の息子であった。
  13. この当時のシラクサの政治(体制)は,民主政治と寡頭政治(少数独裁政治)の混じり合ったものであったように思わえる。

  14. アガソクレス派の人々は,昼間は男たちの殺戮で日を過ごし,夕方になると女たちに目を転じた。

  15. アガソクレスは戦いにおいては工夫に富み勇敢であったが,無謀であった。
  16. ガソクレスは,援軍が必要と感じて,キュレネ(注:Cyrene:現リビア領内にあった古代ギリシアの都市)に使節(団)を送った。

  17. アガソクレスのシシリー(シチリア)における権力は,しばらくの間,こういったあらゆる浮き沈み(栄華盛衰)を切り抜けて生き残った。

  18. ルネッサンス時代のイタリアは,古代ギリシアと非常に似たところがある(非常に類似した姿を提供している)。
  19. ルネッサンス時代のイタリアにおいては,古代ギリシアにおいてそうであったように,非常に高度な水準の文明が非常に低い水準の道徳と結びついていた。

  20. むきだしの権力の時期は,通常,短い。

  21. 国際間においてのみでなく,単一国家の内政においても,権力がむきだしの場合には,権力奪取(獲得)の方法は,他のいかなる場合よりも,はるかに無慈悲なものとなる。
  22. 被支配者が権力を単に権力だという理由だけで尊敬するような場合には,権力はむきだしになる。

  23. トラシマコスの説(理論)は,一般に受けいれられる場合,社会の秩序の存在(秩序を保つこと)を全て政府が自由に使える直接的かつ物理的な力(注:軍事力や警察力)に依存させる。

  24. 迷信以外の方法による統治形態(迷信にたよらずに統治する形態)に対し(国民)一般の同意を勝ち得る方法について考察することは後の章に譲るが,今の段階においては,2,3の予備的な言及をしておくことが適切であろう。
  25. ルソーの『社会契約論』は,現代の読者にとって(は),非常に革命的な(意味を持つ)ものとは思われない。

  26. この間題の本質は,時折,誤解されている。

  27. 私はこれまで,政治的権力について述べてきたが,しかし,経済の領域においても,むきだしの権力は,少なくとも,政治の領域同様に重要である。
  28. 産業主義の揺藍期においては,支払われる賃金を調整する慣習はまったくなく,また,被雇用者も組織化されていなかった。そ

  29. 経済学においてむきだしの権力が演ずる役割は,マルクスの影響がまだ働いていなかった頃に考えられていたよりも,もっとずっと大きい。

  30. 社会主義者である貸金労働者(注:a Socialist と大文字になっているので「社会党員」のことか?)は,自分の収入が雇傭者の収入より少ないことは不正(不正義)だと感 ずるかもしれない。
  31. 人間(人類)の歴史において,非常に忌むべき行為(注:abominations 複数形であることに注意)の大部分はむきだしの権力と関連している。
  32. 権力は,政府の権力であれ,無政府主義的で冒険的な権力であれ,なければならない(存在しなければならない)。
  33. 私はこのこと(権力の監視及びコントロール)は容易だと言うつもりはない。
第7章 革命的な権力