(私が乗ったタクシーの)運転手は、私の講演を以前聴いたことがあるがそれは自分が知的であった過去のことだと言い、「今じゃ結婚して、平凡な人間になってしまいましたよ」と付け加えた。この話は結婚生活の痛ましい結果のように思えたので、私は色々考えさせられた。人格の完成であるべき結婚が、どうしてまったく正反対のものとして感じられるのか。彼の結婚が不幸なものであることを示すものはなかった。そこでこの運転手は、結婚そのものがこの悲惨な結果をもらしたと考える。私自身は結婚してそのような結果を経験したことがないが、このタクシー運転手は、多くの人達の結婚について感じていることを代弁していると、私は理解している。
He (The taxi driver) then went on to say that in former days he had heard me lecture, but that belonged to his intellectual past. 'Now,' he continued, 'I am a married man and have ceased to be a person.' This seemed a painful result of matrimony and naturally set me reflecting. Why should marriage, which ought to be the fulfilment of personality, be felt as quite the opposite? There was no suggestion that his marriage was unhappy; it was to marriage as such that he attributed this dire result. I never myself experienced any such result of being married, but I know that the taxi driver was putting into words what a great many people feel.
Source: Bertrand Russell: Mortals and Others; Bertrand Russell's American Essays, 1931-1935, v.1
More info.: https://russell-j.com/MARRIAGE.HTM
＜寸言＞
名作と言われる映画はたくさんありますが、大部分は名前だけ知っているだけというのが現実です。その名作の一つにマーティン・スコセッシ監督の作品（ロバート・デ・ニーロ主演）の「タクシードライバー」（1976年公開、第29回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞）があります。ウィキペディアに詳しい解説がありますので、詳しい内容紹介は省略しますが、この映画に出てくる主人公のトラビス（タクシードライバー）は、ベトナム戦争帰りの元海兵隊員で、戦争による深刻な不眠症を患っており、重大な犯罪を犯すことになります。従って、ラッセルが引用している温和なドライバーとはずいぶん異なります。
なぜこの映画に言及するかと言うと、「バートランド・ラッセル」の名前がでてくるからです。（上記の引用はラッセルの『アメリカン・エッセイ集』に収録されていますので、スコセッシ監督はこのエッセイが頭にあったのかも知れません。）
それはともかく、該当の部分だけ以下引用しておきます。
https://note.com/northflight/n/n2f57b2cb4420
「どうせ俺らは終わってんだ」というウィザードの言葉に
「そんなアホな」と返すトラヴィス。
それでも怒らずに、
「俺はバートランドラッセルじゃあねえんだぞ。タクシードライバーに何を求めてんだ？」・・・
ついでに、ラッセルのエッセイに関係しそうな英国の有名な新聞（ガーディアン）の記事の最初の部分のみ引用しておきます。
https://www.theguardian.com/theguardian/2004/sep/20/features11.g2
「あるタクシー運転手はかつてバートランド・ラッセルを自分のタクシーに乗せたことがありました。その時代で最も有名な哲学者だったラッセルに、その運転手は「一体全体、人生の意味とは何ですか？」と尋ねました。しかし、ラッセルは答えることができませんでした。驚くことではないとあなたは思うかも知れません。人生の意味は最も深遠で捉えどころのない謎であり、最も偉大な頭脳（知性）にとってさえも未知のものだからです。確かに、それに答えられると言う人は、冗談を言っているか、狂っているか、単に間違っているだけでしょう。・・・」
閑話休題。
#バートランド・ラッセル #Bertrand_Russell