バートランド・ラッセルの名言・警句( Bertrand Russell Quotes )

 我々は自殺の問題を,その是非ではなく,いわゆる人命の神聖さ(人命尊重)に関連づけて考えがちである。けれども,この人命尊重という言葉を真面目にとるのはルール違反だと考える。なぜなら、その言葉を真面目に受け止める者は,戦争を糾弾しなければならなくなるからである。今の世の中で戦争が我々の社会制度の一部分になり続けている限り,悲惨な状態のために自殺を試みなければならない不幸な人達に対して人命の神聖さ(人命尊重)に訴えるのはを呼びかけることは,単なる偽善にすぎない。

The subject of suicide is apt to be considered not on its merits but in relation to what is called the sacredness of human life. I find, however, that it is illegal to take this phrase seriously, since those who do so are compelled to condemn war. So long as war remains part of our institutions it is mere hypocrisy to invoke the sacredness of human life against those unfortunates whose misery leads them to attempts suicide.
Source: Bertrand Russell: llegal?, Mar. 9, 1932. In: Morals and Others, v.1 (1975)
More info.:https://russell-j.com/ILLEGAL.HT

<寸言>
 これは、英米人向けのエッセイ集(Mortals and Others, Volume I: American Essays 1931-1935)に収録された「llegal?(自殺は違法か?)」と題されたエッセイに出てくる発言です。日本人だったら、「自分の命を粗末に扱ってはいけませんよ!」ということで、「どうして人命の尊さ(人命尊重)に関連づけて考えていけないのか?」と怪訝に思われる方も多いと思われます。また、「戦争が我々の制度の一部分になっている」という表現もすぐには理解できないかも知れません。

 しかし、米国やソ連や中国などの大国が自国が関与した戦争及びそれらの大国の友好国がそれらの戦争に対して示した態度(大国の「自衛のため」「防衛のため」「自由や民主主義を守るため」の戦争や軍事支援に対する友好国の「中立」の名を借りた”消極的"支持も含む)を見れば、「戦争が我々の制度の一部分になっている」というラッセルの発言も理解できると思われますが、どうでしょうか?

 戦争反対、平和主義堅持を唱えながら、朝鮮戦争やベトナム戦争などで日本経済は大きな恩恵を受けました。他国における戦争や軍需産業によって利益を得る人達が多く存在しています。米国の産業の約40%は何らかの点で防衛に関係していると言われています。従って、軍縮に抵抗する人達が米国には多数存在しています。

 ユダヤ人はホロコーストによって筆舌に尽くしがたい苦難を経験しました。ハマスも許しがたい残虐な行為をしました。だからと言って、イスラエル軍がハマスを攻撃した時にガザの一般市民が多数死亡しても「仕方がないこと」と、イスラエルの多数の国民が考えている現状も許容できません。ガザの多数の市民の犠牲に対して日本国民も日本政府も同情的ですが、日本政府はイスラエル政府を表立った非難することはありません。日本政府はアメリカ政府が支持することに対して、不支持を表明することはできないのが現状です。「中立」か「黙視」しかできません。これこそが、「戦争が我々の制度の一部分になっている」証拠ではないでしょうか?

 ところで、「illegal」という単語は「違法な」という意味がありますが、「'人命尊重'という言葉を真面目にとるのは違法(法律違反)」というのは変です。DeepL も Google 翻訳も「違法な」と訳してしまうので、Google gemini にそれを質したところ、以下のような回答がありました。

 確かに、「illegal」を「違法」と訳すと、一見不自然な印象を受けますね。

 ラッセルの意図をより正確に伝えるためには、「illegal」のニュアンスをもう少し深く掘り下げてみる必要があります。

1. 反語表現としての「illegal」
 ラッセルは、「人命尊重」という言葉を真剣に受け止めると、戦争を非難せざるを得ないという論理展開をしています。しかし、当時の社会においては戦争は合法であり、むしろ国家の義務とさえ考えられていました。
 つまり、ラッセルは「illegal」という言葉を皮肉や反語として用いることで、「人命尊重」と戦争という二つの概念の間にある矛盾を強調しようとしているのです。

2. 社会規範への異議申し立て
 「illegal」には、「法律で禁じられている」という意味だけでなく、「社会規範に反している」という意味もあります。
 ラッセルは、戦争という行為が人間の生命の尊厳という社会規範に反しているにもかかわらず、合法とされている現状を批判しています。

3. より適切な訳語
 上記の点を踏まえると、「illegal」を「違法」と訳すよりも、「不適切」、「矛盾している」、「倫理的に問題がある」といった訳語の方が、ラッセルの真意をより正確に伝えられると言えるでしょう。

4. 訳文例
 以下、上記の点を踏まえた訳文例です。

 人命尊重という問題は、その本質ではなく、「人間の生命の尊厳」と呼ばれるものとの関係においてのみ考慮されることが多い。しかし、私はこの言葉を真剣に受け止めることは不適切であると考える。なぜなら、それを真剣に受け止める人は、戦争を非難せざるを得ないからだ。戦争が我々の社会制度の一部である限り、苦しみによって自殺を企てる不幸な人々に対して、人間の生命の尊厳を持ち出すのは偽善に過ぎない。

5. 補足
 ラッセルの文章は、当時の社会状況を反映した表現を用いています。現代社会にそのまま当てはめることはできません。ラッセル自身は、自殺を肯定しているわけではありません。

6. 参考情報
 ・バートランド・ラッセル - Wikipedia:
 ・自殺 - Wikipedia: https://zh.wikipedia.org/zh-cn/%E8%87%AA%E6%AE%BA

#バートランド・ラッセル #Bertrand_Russell