ラッセル英単語・熟語1500 |
まず、殺人の禁止をとりあげてみよう。もし「殺人(murder)」が「正当化できない殺人(homicide)」と定義されるなら、殺人(murder)は、同語反復的に(tautologically)、間違っているということになる。しかしこれは、殺人がどんな時に正当化されるかという問題に論点を移しただけである。多くの人は、戦時や法の正当な手続きによる断罪の結果の殺人は正当化されると考える。自分の命を守る方法が他にない場合には自衛のために人を殺す権利がある、というのはごく一般的な考え方である。そこから、自分の妻や子供を守るために人を殺す権利も持っていに違いないという結論がでてくるように思われる。しかし、自分の妻を死よりも悪い運命から救うことについてはどうであろうか?(注:安楽死など) また、他人の子供が危険に瀕している場合、その子供についてはどうであろう(注:その子供を救うために危害を加えようとしている者を殺害するなど)。
Take, first, the prohibition of murder. If "murder" is defined as "unjustifiable homicide" it follows tautologically that murder is wrong. But this merely transfers the argument to the inquiry as to when homicide is unjustifiable. Most people think that homicide is justified in war and as a result of condemnation by due process of law. It is very generally held that you have a right to kill a man in self-defence if there is no other way of preserving your life. It would seem to follow that you must have a right to kill a man in defence of your wife or your children. But how about saving your wife from a fate worse than death? And how about other people's children when they are in danger?
Source: Bertrand Russell: Human Society in Ethics and Politics, (1954), chapter 3
More info.:https://russell-j.com/cool/47T-0305.htm
<寸言>
論理学者らしい物言いです。
ところで、ラッセルは、「殺人(murder)」を「正当化できない殺人(homicide)」と定義すると、「殺人(murder)は -同語反復的に(tautologically)- 間違っているということになる」と言っていますが、その言葉の意味やニュアンスはお分かりでしょうか?
その証明は以下のようになると思われます。
「殺人(Murder: 殺意のある殺人)」を"M," 「殺人(homicide 殺意のないものも含む,殺人一般)を"H"とします。
"H "は "h1"(殺意のない殺人)+ "h2"(殺意のある殺人) であることは定義上明らかです。
また、”h1"(殺意のない殺人)も正当化できるもの "h11" と正当化できないもの "h12" からなっていることは明らかです。
「殺人(murder)」を「正当化できない殺人(homicide)」と定義するというのは、
M = h2 + h12 (つまり、「殺意のない正当化できるものを除いた殺人」ということになり、偶発的な殺人であっても「正当化できない殺人」は全て含んでいます。)
従って、「殺人(murder) M」は「正当化できない殺人」の集合という定義ですので、 「正当化できない殺人」= 「正当化できない殺人」(A = A)と言っていることになり、"同語反復"ということになります。(証明終わり)
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