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私にとって,ロシア滞在期間中(1920.5.12~ 6.17)は,絶え間なく増大し続ける悪夢の時であった。私は,熟考の末,真実であると思われることを全て印刷物(注:本・雑誌論文・新聞記事等/特に The Practice and Theory of Bolshevism, 1920)のなかで述べた。しかし,ロシア滞在中に私を圧倒したとてつもない恐怖感については述べなかった。残虐,貧困,嫌疑,迫害が,まさしく我々が呼吸する空気を形作っていた。我々の会話は,絶えず,監視されていた。真夜中によく銃声が聞こえ,理想主義者たちが獄中で銃殺されたことを知った。偽善的な見せかけだけの平等があり,すべての人間が,同志(tovarisch)と呼ばれていたが,驚くべきことに,この言葉も,声をかける相手がレーニンであるか,怠惰な使役人であるかによって,その発音の仕方は非常に異なっていた。
For my part, the time I spent in Russia was one of continually increasing nightmare. I have said in print what, on reflection, appeared to me to be the truth, but I have not expressed the sense of utter horror which overwhelmed me while I was there. Cruelty, poverty, suspicion, persecution, formed the very air we breathed. Our conversations were continually spied upon. In the middle of the night one would hear shots, and know that idealists were being killed in prison. There was a hypocritical pretence of equality, and everybody was called 'tovarisch', but it was amazing how differently this word could be pronounced according as the person addressed was Lenin or a lazy servant.
Source: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2
More info.:https://russell-j.com/beginner/B22-130.HTM
<寸言>
ラッセルは、英国労働党の代表団に加えてもらい、1920年5月12日から6月17日まで、革命直後のロシアを訪問し、各地を回ります。レーニンとも会見し、その印象も語っていますが、それは日本の雑誌『改造』等にも載せられています。
訪ソによって革命直後のロシアを直接見聞することによって、ロシア(共産主義の)理想(理論)と現実との相違に衝撃を受け、帰国後、その実態を書くべきか、(まだ革命直後なのだから)書くのを控えるべきかと悩んだ末、周囲の反対を振り切って、ロシア共産主義(Bolshevism)の理論と実際(革命直後のロシアの現実)について率直に書いた本(The Practice and Theory of Bolshevism, 1920/邦訳書:みすず書房刊『ロシア共産主義』)を出版します。
今年(2020年)は、本書が出されてちょうど百年ですが、百年前(大正9年)の当時の日本の評論家の革命直後のロシアに関する表面的な理解とは対照的なラッセルの視野の広さは驚きです。
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