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彼(ウィトゲンシュタイン)の父親は,第一次世界大戦勃発の直前に,全財産をオランダに移しており,それゆえ,終戦時においても,大戦勃発時とほとんど同程度に裕福であった。そうして,丁度休戦の日と同じ頃に,彼の父親は亡くなり,ウィトゲンシュタインは父親の財産の大部分を相続した。しかし,彼は,哲学者にとって財産は'じゃまなもの(無益なもの)’であるとの結論に達し,全額を兄弟姉妹にあげてしまった。その結果,彼は,ウィーンからハーグまでの汽車賃を払うことができなくなった。しかも,彼は非常に誇りが高く,そのお金を私からもらうことは自尊心が許さなかった。しかしついに,この困難の解決法が見つかった。彼がケンブリッジ大学にいた時に所有していた家具や書籍がまだケンブリッジに置かれており,それを私に譲渡してもいいと,彼は意志表示をした。
His (= Wittgenstein's) father, just before the outbreak of the War, had transferred his whole fortune to Holland, and was therefore just as rich at the end as at the beginning. Just about at the time of the Amistice his father had died, and Wittgenstein inherited the bulk of his fortune. He came to the conclusion, however, that money is a nuisance to a philosopher, so he gave every penny of it to his brother and sister. Consequently he was unable to pay the fare from Vienna to the Hague, and was far too proud to accept it from me. At last a solution of this difficulty was found. The furniture and books which he had had at Cambridge were stored there, and he expressed a willingness to sell them to me.
Source: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2
More info.:https://russell-j.com/beginner/AB22-080.HTM
<寸言>
ウィトゲンシュタインの父親(カール・ウィトゲンシュタイン、1847-1913)に関する情報を少しだけ追加しておきます。
ウィトゲンシュタインの父親は、オーストラリアの実業家(製鉄業で成功)で、大富豪でした。日本で言えば渋沢栄一にあたる人と言ってよく、オーストリアにおける「近代産業の」父と呼ばれているそうです。芸術家のパトロンとしても有名で、著名な音楽家・画家・建築家(ヨハネス・ブラームス、パブロ・カザルス他)が自宅に出入りし、フェリックス・メンデルスゾーン、オーギュスト・ロダン、ハインリヒ・ハイネ、その他大勢の芸術家と親交をもちました。子供を9人もうけ、ルートウィヒ・ウィトゲンシュタインは末っ子として1889年に生まれています。当然のこと、子供たちも彼らの影響を受けることになります。
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