疑いもなく,いわゆる愛国心は,文明が現在さらされている最大の危機であり,愛国心の毒々しさを増大するものはどのようなものであっても,天災,疫病,飢饉よりも恐るべきものである。現在,若者たちの忠誠心は,一方では親に,他方では国家にというふうに,二分されている。もし,若者の忠誠心が国家にのみささげられるようなことになったとしたら,世界は現在よりもよりいっそう血に飢えたものになるだろうと恐れるべき重大な理由がある。従って,国際主義の問題が未解決のままであるかぎりは,子供の教育と世話を国家が担う量が増えることには,その明白な利益を上まわる由々しい危険がある,と私は考えている。
Undoubtedly patriotism, so-called, is the gravest danger to which civilization is at present exposed, and anything that increases its virulence is more to be dreaded than plague, pestilence, and famine. At present young people have a divided loyalty, on the one hand to their parents, on the other to the State. If it should happen that their sole loyalty was to the State, there is grave reason to fear that the world would become even more bloodthirsty than it is at present. I think, therefore, that so long as the problem of internationalism remains unsolved, the increasing share of the State in the education and care of children has dangers so grave as to outweigh its undoubted advantages.
情報源: Bertrand Russell :Marriage and Morals, 1929
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/MM15-090.HTM
<寸言>
近代における愛国心は,発展途上国が先進国に追いつき追い越すために,また民族自決の精神のもとに独立した国々において鼓舞された。一方、民主主義が発達した先進国においては狭量な愛国心に訴えることは少なく、国際主義や自由主義を推し進めようとする傾向があった。しかし、現代においては、アメリカやフランスなどの民主主義の代表を標榜してきた国々において、権力者は権力を保持あるいは拡大するために愛国心を大いに利用している。