家族(制度)を最高度までに成熟させたものは,初期の牧畜・農業社会の経済的状況であった。大部分の人たちにとっては,奴隷労働は手に入らなかった(利用することができなかった)。それゆえ,労働者(働き手)を手に入れる最も容易な方法は,労働者(となる子ども)を生むことであった(産めよ増やせよ)。彼ら(子供たち)が父親のために必ず働くようにするには,宗教と道徳のすべての重みをかけて(重み付けをして),家族制度を神聖化する必要があった。長子相続(primogeniture)は,しだいに家族の結合を傍系親族(分家筋)にまで広げ,家長の権力を強めていった。王や貴族の身分(王政や貴族制)は,本質的に,この思想の秩序の上に成り立っており,また,神でさえ,そうである。なぜなら,(ギリシア神話の)ゼウスは,神々と人間の父であったからである。
It was the economic conditions of early pastoral and agricultural communities that brought the family to its fullest fruition. Slave labour was, for most people, unavailable, and therefore the easiest way to acquire labourers was to breed them. In order to make sure that they should work for their father, it was necessary that the institution of the family should be sanctified by the whole weight of religion and morals. Gradually primogeniture extended family unity to collateral branches, and enhanced the power of the head of the family. Kingship and aristocracy depend essentially upon this order of ideas, and even divinity, since Zeus was the father of gods and men.
情報源: Bertrand Russell :Marriage and Morals, 1929
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/MM13-050.HTM
<寸言>
多くの国民は人口を増えて競争がはげしくなるよりも,過当競争にならずに安定した収入を得たいと思う。しかし、競争に自信のある者や国家主義者たちは,たとえ経済格差が進むとしても、自分の取り分や、国家全体の富(GDPなど)が増えることを優先しがちである。そのために、みんな努力すれば豊かになれるとか、「努力していない者が富を得ることなんか許すべきではないですね」とかいった憎悪心をあおり,結局は日々の生活を犠牲にしてまで働き続けることになる。 米国ではアメリカン・ドリームを過剰に評価し、少数者の成功のために多数の者が不幸を感受する。愚かなり。