バートランド・ラッセル『反俗評論集-人類の将来』第1章(松下彰良・訳)
* 原著:Bertrand Russell: Unpopular Essays, 1950
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第1章「哲学と政治(1947)」n.13
プラトンがパルメニデスから受け継ぎ、自らのイデア論に具体化した静的完全という理想(注:理想国の状態を維持し続けること)は、現在では一般に人事(人間に関わる事柄)にはあてはめることのできないものと認識(理解)されている。人間は、休むことをしない動物であり、一ヶ月に一度十分食べあとは寝ているという南米の大蛇(the boa constrictor)のように、満足することはない。 人間は自分の幸福のためにあれこれのものを手にいれる必要があるばかりでなく、希望と冒険と変化とを必要とする。ホップスがいうように「至福(felicity)」は成功し続けることにあるのであって、成功したことにあるのではない」(注:"felicity consisteth in prospering, not in having prospered.”)。(注:ただし、トマス・ホッブスの「万人の万人に対する闘争」での記述は、「For war consisteth not in battle only, or the act of fighting, but in a tract of time, wherein the will to contend by battle is sufficiently known」= すなわち、戦争とは、闘いつまり戦闘行為だけではない。闘いによって争おうとする意志が十分に示されていさえすれば、そのあいだは戦争である。) 近代の哲学者の間では、終わりなき、そして変わらざる祝福(bliss has )という理想は、進化の観念によってとって代わられた。 そこには、決して完全に到達されることのないゴール、あるいはとにかく今これを書いている時までには到達されなかったゴール、に向かっての正しい進歩があると考えられている。この物の見方に関する変化はガリレに始まったところの、静力学にかえるに動力学をもってしたことのなせるわざであり、そしてその変化はまた科学的、政治的のいずれをとわず近代の全ての考えかたに次第に強く影響をあたえるようになった。
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Philosophy and Politics, (1947), n.13
The ideal of static perfection, which Plato derived from Parmenides and embodied in his theory of ideas, is one which is now generally recognized as inapplicable to human affairs. Man is a restless animal, not content, like the boa constrictor, to have a good meal once a month and sleep the rest of the time. Man needs, for his happiness, not only the enjoyment of this or that, but hope and enterprise and change. As Hobbes says, "felicity consisteth in prospering, not in having prospered.” Among modern philosophers, the ideal of unending and unchanging bliss has been replaced by that of evolution, in which there is supposed to be an orderly progress towards a goal which is never quite attained or at any rate has not been attained at the time of writing. The change of outlook is part of the substitution of dynamics for statics which began with Galileo, and which has increasingly affected all modern thinking, whether scientific or political.
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(掲載日:2023.07.30/更新日: )