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バートランド・ラッセル『ヒューマン・ソサエティ-倫理学から政治学へ』第2部[「情熱の葛藤」- 第2章- Human Society in Ethics and Politics, 1954, Part II, chapter 2

* 原著:Human Society in Ethics and Politics, 1954
* 邦訳書:バートランド・ラッセル(著),勝部真長・長谷川鑛平(共訳)『ヒューマン・ソサエティ-倫理学から政治学へ』(玉川大学出版部,1981年7月刊。268+x pp.)

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『ヒューマン・ソサエティ』第2部「情熱の葛藤」- 第2章「政治的に重要な欲望」n.19

Human Society in Ethics and Politics, 1954, part II: The Conflict of Passions, chapter 2: Politically important desires, n.19


 私は皮肉で締めくくっているように思われたくない。利己主義(selfishness)よりも優れたものがあり、それを達成する人々がいることを私は否定しない。けれども一方で、政治が関係するような人間の大規模な集団が利己主義を超えるような機会はほとんどなく、また他方で、利己主義を啓発された自己利益(enlightened self-interest)と解釈するならば、大衆がその利己主義にも及ばない状態に陥る状況は非常に多く存在する、と私は主張する。

 そうして、人が自己利益を下回る言動をとる場合(訳注:下回る場合 fall below self-interest)、その大部分は理想主義的な動機から行動していると思い込んでいる時である。理想主義として受け取られているものの多くは、憎悪や権力愛を偽装したもの(憎悪や権力愛が隠れているもの)である。多くの人々が崇高な動機のように見えるものに振り回されているのを見るときは、その表面の下をよく見て、そうした動機を効果的なものにしているものは何かを自問するのがよい。私が試みてきたような心理学的な探求をする価値があるのは、高貴さの外観に簡単に取り込まれてしまうからでもある。結論として申し上げれば、私が述べたことが正しいとすれば、世界を幸福にするために必要な主なものは知性であるということである。そしてこれは、結局のところ、楽観的な結論である。なぜなら、知性は既知の教育方法によって育むことができるからである。

【 ChatGPT: 「啓発された利己主義」となると、利己的な利益を追求するにしても、自分自身だけでなく他者や社会への影響も見据え、結果として全体の利益に貢献するような行動を選ぶことを意味します。例えば、他者に協力することで、最終的に自分も恩恵を受けられるというように、より広い視点から自分の利益を考えた自己利益の追求が「啓発された利己主義」と言えます。つまり、「啓発された」には、短期的な自己中心的行動ではなく、賢明で持続的な利益を重視するように自己利益を再定義するニュアンスが含まれています。】
I do not wish to seem to end upon a note of cynicism. I do not deny that there are better things than selfishness, and that some people achieve these things. I maintain, however, on the one hand, that there are few occasions upon which large bodies of men, such as politics is concerned with, can rise above selfishness, while, on the other hand, there are a very great many circumstances in which populations will fall below selfishness, if selfishness is interpreted as enlightened self-interest.

And among those occasions on which people fall below self-interest are most of the occasions on which they are convinced that they are acting from idealistic motives. Much that passes as idealism is disguised hatred or disguised love of power. When you see large masses of men swayed by what appear to be noble motives, it is as well to look below the surface and ask yourself what it is that makes these motives effective. It is partly because it is so easy to be taken in by a facade of nobility that a psychological inquiry, such as I have been attempting, is worth making. I would say, in conclusion, that if what I have said is right, the main thing needed to make the world happy is intelligence. And this, after all, is an optimistic conclusion, because intelligence is a thing that can be fostered by known methods of education.