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バートランド・ラッセル 宗教と科学 第8章(松下 訳)- Religion and Science, 1935, by Bertrand Russell

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第8章 宇宙の目的 n.11 - 「心」という形而上学的存在

 心理学という一つの独立した科学の可能性については、ましてや(even less),現在のところ,語ることはできない。(訳注:この一文は「我々の身体活動は物理化学的法則で決定されるのだろうか? もしそうだとしたら,人工的に作り上げられた物質という概念を用いずに,直接的に心的事象(精神的事象)を研究する心理学という独立した科学は依然として存在するだろうか?」という2つの問いのうちの後者について述べている。前者については一定の証拠はあるが自信を持って答えることはできないと,ラッセルは述べている。そうして後者の問いについては「ましてや・・・」というニュアンス。従って,荒地出版社の津田訳のように「心理学という独立した学問の可能性については、現在のところ、これ以上語ることはできない」といった曖昧な訳は不適切。しかも「even less (can be said)」を「これ以上(語ることはできない)」と訳すのは不適切。「even less」の「ましてや~;いわんや~」のニュアンスがなくなってしまっている。)精神分析(学)は、ある程度、そのような科学(学問)を創り上げようとしてきた。しかし、そのような試みも、生理学的な因果関係を避けている限り、その成功はいまだ疑問視されるであろう。ためらいがちではあるが、私は -現在の物理学や心理学のどちらとも異なるものであるけれども - 究極的には,両者(物理学と心理学)を包括するような科学(学問)が生れるだろうという見解(考え)に傾いている。物理学の方法は、今日ではもはや存在していないところの「物質」という形而上学的な実体に対する信念(信頼)に影響されて発展した。そうして、新しい量子力学誤った形而上学を必要としない(dispenses with なしで済ます)異なった方法を持っている。(一方)心理学の方法は、ある程度まで、「心」という形而上学的存在への信念(信頼)のもとで発展した。物理学と心理学は,両者ともこれらの延々と続いている誤りから完全に解放された時には、心や物質を扱うのはなく、-「物理的」とも「精神的(心的)」とも名付けられないような- 事象を扱う科学(学問)へと発達するだろうことは可能だろうと思われる。そして、そそれまでの間、心理学の学問的位置付けの問題は検討対象にされ続ける必要がある。

Chapter 8:Cosmic Purpose , n.11


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With regard to the possibility of an independent science of psychology, even less can be said at present. To some extent, psycho-analysis has attempted to create such a science, but the success of this attempt, in so far as it avoids physiological causation, may still be questioned. I incline - though with hesitation - to the view that there will ultimately be a science embracing both physics and psychology, though distinct from either as at present developed. The technique of physics was developed under the influence of a belief in the metaphysical reality of "matter" which now no longer exists, and the new quantum mechanics has a different technique which dispenses with false metaphysics. The technique of psychology, to some extent, was developed under a belief in the metaphysical reality of the "mind." It seems possible that, when physics and psychology have both been completely freed from these lingering errors, they will both develop into one science dealing neither with mind nor with matter, but with events, which will not be labelled either "physical" or "mental." In the meantime, the question of the scientific status of psychology must remain open.
(掲載日:2019.1.21/更新日: )