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バートランド・ラッセル 権力 第15章 (松下彰良 訳)- Power, 1938, by Bertrfand Russell

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第15章 権力と道徳律, n.17 - 個人的道徳とは何か?


ラッセル著書解題
(このように考えると)検討すべき問い(問題)二つある。第一(の問い)は,実際的道徳が,実際的道徳それ自体の見地から,個人的道徳に対して採るための最も賢明な態度は何か(である)。第二(の問い)は,個人的道徳は,実際的道徳に対し,どの程度の敬意を払わなければならないか(owe to 義務を負っているか)。しかし,これらの問いについて論議する前に,個人的道徳とは何か(どういったものを意味しているか)について,少し述べなければならない。

 個人的道徳は,歴史的現象(の一つ)として,あるいは、哲学者の見地から,考察することができるであろう。前者の観点から始めよう。

 かつてこの世に生を受けたありとあらゆる人はほとんど全て,歴史の知るかぎり(歴史記録に残っている限り),ある種の行為に対して(これまで)深刻な恐怖を抱いてきた。一般的に,これらの行為は忌むべきもの(行為)と考えられたが,それは単に一個人だけでなく,一種族全体あるいは一国民あるいは一党派あるいは一階級全体によって忌むべきもの(行為)と考えられた。その嫌悪感の起源はわかっていない場合もあれば、道徳上の革新者である歴史上の人物にまで跡をたどることができる場合もある。我々は,イスラム教徒(回教徒)が動物や人間の像を描こうとしない理由を知っている。(つまり)それは,予言者ムハンマド(マホメット)がそうしてはならないと禁じたからである。我々は,正統派のユダヤ人がなぜ野ウサギを食べないか,知っている。それは,モーセ(モーゼ)の律法野ウサギは不浄だと宣告したからである。こういった禁令は,人々に受けいれられると実際的道徳に属するものとなる。しかし,もともとは(起源をたどれば/起源においては),ともかくもその起源がはっきりとしている場合には,個人の道徳に属していたのである。

Chapter 15: Power and Moral Codes, n.17

There are two questions to be considered : First, what is the wisest attitude for positive morality, from its own standpoint, to take to personal morality? Second, what degree of respect does personal morality owe to positive morality? But before discussing either of these, something must be said as to what is meant by personal morality.

Personal morality may be considered as a historical phenomenon, or from the standpoint of the philosopher. Let us begin with the former.

Almost every individual that has ever existed, so far as history is aware, has had a profound horror of certain kinds of acts. As a rule, these acts are held in abhorrence, not only by one individual, but by a whole tribe or nation or sect or class. Sometimes the origin of the abhorrence is unknown, sometimes it can be traced to a historical personage who was a moral innovator. We know why Mohammedans will not make images of animals or human beings; it is because the Prophet forbade them to do so. We know why orthodox Jews will not eat hare; it is because the Mosaic Law declares that the hare is unclean. Such prohibitions, when accepted, belong to positive morality; but in their origin, at any rate when their origin is known, they belonged to private morality.
(掲載日:2018.03.10 /更新日: )