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バートランド・ラッセル 権力 第6章 (松下 訳)- Power, 1938, by Bertrand Russell

Back(前ページ) Next(次ページ) 第6章_イントロ索引 Contents(総目次)

第6章 むきだしの権力 n.33 - 権力の監視及びコントロール

 私はこのこと(権力の監視及びコントロール)は容易だと言うつもりはない。(そのためには,)ひとつには,戦争の根絶が必要であり,戦争は全てむきだしの権力の行使であるからである。(また)そのためには,世界から反抗を生む耐え難い抑圧をなくす必要がある(自由な世界の実現)。(また)そのためには,全世界を通じての生活水準の向上が - 特にインドと中国と日本において,少なくとも世界大恐慌前の米国で達せられていた水準まで向上することが - 必要である(注:この本がだされたのが1938年=昭和13年であり,当時の日本は非常に貧しかった。なお,みすず書房版の東宮訳では,before the depression を「不景気前」と誤訳している)。(また)そのためには,古代ローマの護民官に似たような何らかの制度が必要であり,それは人民(国民)全体のためではなく,マイノリティー(少数派)や犯罪者などのような,抑圧されがちなあらゆる階層のために必要である。(さらにまた)そのためには,とりわけ用心深い世論が必要であり,その世論には事実を確認する(確かめる)いろいろな機会が伴っていなければならない。
 特定の個人とか特定の個人の集団の徳(道徳的美点)を当てにすること(信頼を置くこと)は無益である。哲人王(注:頭脳明晰な哲学者が支配者になること)は随分前に怠惰な夢として退けられたが,(今日)哲人政党は -これも同様に間違っているが- 偉大な発見として,歓呼して迎え入れられている。(注:本書の出版は1938年であることから、 ドイツにおけるナチス(=国家社会主義ドイツ労働者党)による1933年の政権獲得を指していると思われる。) 権力の問題の真の解決は,少数者による無責任な政治においては見つけることはまったくできないし,それ以外のいかなる近道においても見つけることはできない。しかし,この問題についてのこれ以上の論議は,後の章に譲らなければならない。

Chapter VI: Naked Power, n.33

I do not pretend that this is easy. It involves, for one thing, the elimination of war, for all war is an exercise of naked power. It involves a world free from those intolerable oppressions that give rise to rebellions. It involves the raising of the standard of life throughout the world, and particularly in India, China, and Japan, to at least the level which had been reached in the United States before the depression. It involves some institution analogous to the Roman tribunes, not for the people as a whole, but for every section that is liable to oppression, such as minorities and criminals. It involves, above all, a watchful public opinion, with opportunities of ascertaining the facts.
It is useless to trust in the virtue of some individual or set of individuals. The philosopher king was dismissed long ago as an idle dream, but the philosopher party, though equally fallacious, is hailed as a great discovery. No real solution of the problem of power is to be found in irresponsible government by a minority, or in any other short cut. But the further discussion of this matter must be left for a later chapter.
(掲載日:2017.08.04/更新日: )