第2巻第3章 中国・日本(承前
ある時,私たち同様日本を旅行中の歴史家アイリーン・パワー(Eileen Power,1889-1940:英国の経済史家,中世研究者/右上写真)と一緒に郊外電車に乗っていたとき,席が一つも空いていなかった。しかし,ある日本人が親切にも席を立って自分の席を私に提供してくれた。私は席をドーラに譲った。すると別の日本人が自分の席を私のために空けてくれた。私はその席をアイリーン・パワーに譲った。ここにいたって,日本人たちは私の男らしくない行為にひどくむかむかして,あやうく騒ぎが持ち上がるところであった。 私たちが会った中で本当に好ましく思った日本人は,唯一ミス・イトウ(注:伊藤野枝、1895-1923)だけであった。彼女は若くて美しく,ある有名な無政府主義者(注:大杉栄, 1885-1923)と同棲しており,彼女には(大杉との間に息子が一人いた。ドーラは彼女にこう尋ねた。「当局があなたに何か危害を加えるんじゃないかと恐れていませんか?」 彼女は喉もとに手をあてそれを横にひいて(首をはねられるまねをしながら)言った。「遅かれ早かれ,当局は私たちを殺害するだろうことはわかっています。」 関東大震災の時,彼女がその無政府主義者と同棲している家に,その憲兵(注:甘粕正彦憲兵犬尉)がやって来た。そこに,彼と彼女と(甘粕大尉が2人の子供だと思った)小さな甥の3人がいるのを発見し,彼ら(憲兵隊)は3人に指名手配されていると言った。憲兵本部(注:原文では警察署 the police station と書いてあるが実際は憲兵本部)に3人は連れていかれ,別々の部屋に入れられ,その憲兵(甘粕大尉)によって絞め殺された。手を下した当人は,子供は,連行の途中うまく手なずけたので,始末するのに大した面倒はなかったと自慢した。彼ら(憲兵隊)は,たちまち国家的英雄に祭り上げられ,学校の児童たちは彼らを讃える作文を書かされた。 |
v.2,chap.3: ChinaThe Japanese attitude towards women is somewhat primitive. In Kyoto we both had mosquito nets with holes in them, so that we were kept awake half the night by mosquitoes. I complained of this in the morning. Next evening my mosquito net was mended, but not Dora's. When I complained again the next day, they said: 'But we did not know it mattered about the lady.' Once, when we were in a suburban train with the historian Eileen Power, who was also travelling in Japan, no seats were available, but a Japanese kindly got up and offered his seat to me. I gave it to Dora. Another Japanese then offered me his seat. I gave this to Eileen Power. By this time the Japanese were so disgusted by my unmanly conduct that there was nearly a riot.![]() |