私たちが会った中で本当に好ましく思った日本人は,唯一ミス・イトウ(注:伊藤野枝)だけであった。彼女は若くて美しく,ある有名な無政府主義者(注:大杉栄)と同棲しており,彼女には(大杉との間に)息子が一人いた。ドーラは彼女にこう尋ねた。「当局があなたに何か危害を加えるんじゃないかと恐れていませんか?」 彼女は喉もとに手をあてそれを横にひいて(首をはねられるまねをしながら)言った。「遅かれ早かれ,当局は私たちを殺害するだろうことはわかっています。」
We met only one Japanese whom we really liked, a Miss Ito. She was young and beautiful, and lived with a well-known anarchist, by whom she had a son. Dora said to her: 'Are you not afraid that the authorities will do something to you?' She drew her hand across her throat, and said: 'I know they will do that sooner or later.'
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2 chap. 3: China, 1968
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB23-140.HTM
<寸言>
大杉栄(無政府主義者)と伊藤野枝は,関東大震災の混乱時,1922年9月16火に,甘粕大尉ひきいる憲兵隊によって憲兵本部に連行され,絞殺された。この事件は甘粕大尉の単独犯行とされたが,「殺害は憲兵司令官の指示であった」との証言もあり、真相はよくわかっていない。
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