バートランド・ラッセルの名言・警句( Bertrand Russell Quotes )

 それとは対照的に,法廷の光景は,まさにドーミエのエッチング(注:腐食銅版画)のように見えた。(禁固)2ケ月の有罪判決が私に言い渡された時,「恥を知れ! 恥を知れ! 88歳の老人だぞ!」という叫びが傍聴人から起こった。私は腹が立った。その叫びは好意からであることはわかっていたが,私は故意に刑罰を受けようとしていたのであり,いずれにせよ年齢が有罪かどうかということに何らかの関係があるということは理解できなかった。もしかりに何らかの関係があるとすれば,私の年齢(年をとっているということ)は,それだけ私の罪を大きくした。

By contrast the scene in the courtroom looked like a Daumier etching. When the sentence of two months was pronounced upon me cries of 'Shame, shame, an old man of eighty-eight!' arose from the onlookers. lt angered me. I knew that it was well meant, but I had deliberately incurred the punishment and, in any case, I could not see that age had anything to do with guilt. If anything, it made me the more guilty.
 出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.3:1944-1969, chap.3: Trafalgar Square
 詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB33-230.HTM

 <寸言>
 「生涯2度めの投獄」(一度目はもちろん第一次大戦時の反戦運動のため)ということですが、今回は89歳ということで、刑務所付属の病院での拘束となりました。外に出てはいけないことと、外に向かってメッセージを送ってはいけないことだけを守れば,後は自由でした。このラッセルの「刑務所留置(実際は付属病院への収容)」のニュースは世界に配信され、反戦・反核運動のための宣伝になりましたので、ラッセルにとってはまずは成功と言ってよかったのではないでしょうか?

 なお、ラッセルは「法律を犯した以上、刑に服することは当然」と考えており、年齢を理由に「無罪」にしてあげようという、法廷での(傍聴者たち)の声には、「年齢のせい」にされることには,『自伝』(次のページ参照)で不満をもらしています。
http://russell-j.com/beginner/AB33-230.HTM

 しかし、★ここで重要なのは、法律を犯すことは悪いことだとしても、法律に従うことが法律を犯すこと以上に悪いことであれば、「正しいと信じることを行い、法律に定められた刑に服する」というのが一番正しい態度であると、ラッセルが考えたことです。つまり、「沈黙,あるいは服従は人類に対する罪である」という状況もあることに,人々は思いをいたす必要があるということです。