一般の人々は,自分の家族や隣人たちやその消息について聞いたことのあるすべての今生きている人たちとともに(核兵器によって)焼かれてしまうという'予想'を好まないだろう,と私は考えた。そして,'核の危険'を一般に知らせることだけが必要であり,知らせ終えれば,いかなる党派に属する人でも以前の安全を回復するために結束するだろう,と私は考えた。しかしその考えが間違いだということがわかった。自己保存の本能よりもっと強い本能があるのである。それは他の人間よりも優越したいという欲望である。
I thought that people would not like the prospect of being fried with their families and their neighbours and every living person that they had heard of. I thought it would only be necessary to make the danger known and that, when this had been done, men of all parties would unite to restore previous safety. I found that this was a mistake. There is a motive which is stronger than self-preservation : it is the desire to get the better of the other fellow.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.3, chap. 4:The Foundation, 1969
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB34-010.HTM
<寸言>
もちろん,大部分の人においては,「他の人間に優越したいという欲求は自己保存の本能よりも強い」ということはないであろう。ラッセルがここで言っているのは,多くの人が核兵器の問題の深刻さを余り意識しておらず、「他の人間よりも優越したいという欲求」は多くの人の心のなかで非常に強いので、「結果的に」自己保存の本能よりも他人に勝りたいという欲求のほうが勝っていると言えるような行為をしてしまいがちである、と言っている(のであろう)。
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