しかし振り返ってみると,成長するにつれ,私の人生観を形成する上で祖母がしめる重要性をしだいに認識するようになった。祖母の恐れを知らない勇気,公共心,因襲の軽蔑,多数意見に対する無関心は,いつも私には善いことだと思われたし,模倣する価値のあることだと強く印象づけられた。祖母は,見返しの遊び紙(白紙)に祖母のお気に入りの文句をいくつか書いた聖書を私にくれた。その中に次の文句があった。
「汝,群衆に従いて悪を為すなかれ」
祖母がこの聖句を強調してくれたことは,後になって私がごく小さなマイノリティに属することを恐れさせないよう導いてくれた。
But in retrospect, as I have grown older, I have realized more and more the importance she had in moulding my outlook on life. Her fearlessness, her public spirit, her contempt for convention, and her indifference to the opinion of the majority have always seemed good to me and have impressed themselves upon me as worthy of imitation. She gave me a Bible with her favourite texts written on the fly-leaf. Among these was "Thou shalt not follow a multitude to do evil." Her emphasis upon this text led me in later life to be not afraid of belonging to small minorities.
出典:The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 1, 1967
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB11-080.HTM
<寸言>
人は、よほど強い意志や自信がないと、社会や組織から孤立することになるような言動はしない。へたをすれば職を失い一家全員が路頭に迷うようなことになるかも知れない。
しかし、国家が国民の熱狂におされて他国との間で戦争をおこなうような場合は、個々人が抵抗しないことにより、国家が崩壊したり、長期間に渡って復興ができない甚大な被害を受ける(あるいは他国に与える)ことになりやすい。それに戦争で多数の国民が戦死することは取り返しのつかないことであり、「英霊」としてどんなに手厚く戦死者を慰霊しようとも、戦争を防げなかった為政者の罪は免罪されるものではなく、また、「一億総懺悔」などという言葉で誤魔化されてはならない。