
![]() ラッセル英単語・熟語1500 |
数年前、英国上院(貴族院)で、苦痛を伴う不治の病の場合の安楽死を合法化する法案が提出された。患者本人の同意と医師の診断書がいくつか必要とされた。単純な私には、患者の同意が必要なのは当然と思えるが、罪に関する英国の公式専門家である前カンタベリー大主教は、そのような考え方の誤りを説明した。(彼によれば)患者の同意は安楽死を自殺に変えるものであり、自殺は罪である。貴族(議員)の方々は権威(前大主教)の声に耳を傾け、法案を否決したのである。
Some years ago, in the English House of Lords, a bill was introduced to legalize euthanasia in cases of painful and incurable disease. The patient's consent was to be necessary, as well as several medical certificates. To me, in my simplicity, it would seem natural to require the patient's consent, but the late Archbishop of Canterbury, the English official expert on Sin, explained the erroneousness of such a view. The patient's consent turned euthanasia into suicide, and suicide is sin. Their Lordships listened to the voice of authority and rejected the bill.
Source: Bertrand Russell : Unpopular Essays, 1950, chaptre 7: An Outline of Intellectual Rubbish, p.87 (= Unwin Paperbacks)
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<寸言>
「「自殺」を罪と考えるカトリック教徒の国々/自殺率が高いロシアや韓国」という常識を持っていましたが、それほど事は単純ではなさそうです。ロシアは自殺率が高いことで有名でしたが、添付画像にあるような自殺率の急激な減少は何が原因でしょうか? ロシアの統計はあまり信用出来ないという側面があるかも知れませんが、「世界一の自殺率」というのはどうも現在ではあてはまらないようです。韓国については、その競争の熾烈さから、いまだ自殺率世界一というのは理解できますが、添付画像にあるように、昔から自殺率が高かったわけではありません。
戦争(第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガン戦争、ウクライナ戦争)や社会の大きな変化によって「自殺に対する考え方」や「自殺の許容度」や「自殺率」は変化しますので、思い込み(先入観)は危険です。
その前提のもとですが、キリスト教(カトリック)の影響を受けている社会においては「自殺は罪である」といった受け止め方をする人がけっこうおり、そういう人達から見れば、「安楽死について本人の同意を求めることは、自殺幇助ということになる」という指摘は興味深く思われます。
なお、ラッセルは1932年にも、米国のハースト系の雑誌に「自殺は違法か?」というエッセイを書いています。
https://russell-j.com/ILLEGAL.HTM
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