バートランド・ラッセルの名言・警句( Bertrand Russell Quotes )

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 翌年の1930年には,『幸福の獲得』(いわゆる『幸福論』)という本を出版した。・・・この本は,3つの異なった階層の読者によって異なった評価を受けた。素朴な読者は −本書はそれらの人向けに執筆されたものだが− 本書を愛読した。その結果,大変な売れ行きを示した。これと反対に,インテリぶる連中は,この本を軽蔑すべき金儲けのための,現実逃避の本であり,政治以外になされるべきあるいは言われるべき有益なことがあるのだという虚偽を支持する本だと見なした。しかしながら,またさらに別の階層,即ち専門的な精神科医のレベルにおいては,この本は非常に高い評価を勝ち得た。いずれの評価が正しいのか,私にはわからない。はっきりしていることは,この本が書かれたのは,もし自分が我慢できる程度のいかなる幸福を維持しようとしても,大変な自制心や苦い経験から学んだ多くのことを必要とした,そういった時期だったということである。

In the following year, 1930, I published The Conquest of Happiness, ... This book was differently estimated by readers of three different levels. Unsophisticated readers, for whom it was intended, liked it, with the result that it had a very large sale. Highbrows, on the contrary, regarded it as a contemptible pot-boiler, an escapist book, bolstering up the pretence that there were useful things to be done and said outside politics. But at yet another level, that of professional psychiatrists, the book won very high praise. I do not know which estimate was right; what I do know is that the book was written at a time when I needed much self-command and much that I had learned by painful experience if I was to maintain any endurable level of happiness.
 Source: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2
 More info.: https://russell-j.com/beginner/AB24-070.HTM

<寸言>
 最後の一文は何を言おうとしているのかよくわからない、あるいはもったいぶった言い方だと思う人も少なくないのではないでしょうか?
 英国人の多くや、ラッセルの生涯をある程度知っている読者なら、ラッセルがどうしてこんなに不明瞭な書き方をしているのか推察できるはずです。
 ラッセルとドーラ(年の差20歳以上)はふたりとも自由恋愛論者でした。ただし、ラッセルは自由恋愛論者であるとしても、妻が夫以外の男性との間に子供を設けることはルール違反と考えていました。しかし、ドーラは別の男性との間にも子供を設けるとともに同居させたため,結局、離婚にいたりました(法的に離婚が成立したのは1935年です)。ラッセルが『幸福論』を執筆していたのはそういう困難な時期でした。
 ラッセルは、『幸福論』第6章「妬み(ねたみ)」において、嫉妬心はよくない感情であり、それよりも(自分の愛する人が愛する人も愛するというように)寛容の心や愛情を拡大していったほうがよいと書いています。それを読んだ読者のなかには「ラッセルは嫉妬心という人間的感情に欠けている」と非難がましいことを言うひともいますが、嫉妬心がないのではなく、嫉妬心を克服してきた過去があったわけです。
 
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