三浦俊彦による書評

★ エドワード・O.ウィルソン『知の挑戦』(角川書店)

* 出典:『読売新聞』2003年3月2日掲載


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 「社会科学や人文科学は、自然科学との統合に鈍感ですまされるだろうか?」進化生物学の大家によるこの挑発の言葉に、文科系の人々は鈍感ですまされるのだろうか。経済、倫理、芸術まで含むあらゆる文化現象を、生物学と脳神経科学の枠組みで体系化できるところまで科学は進んでいる、とウィルソンは力強く断定する。「遺伝子と文化の共進化」というアイディアを軸に、全知識の科学化が夢ではないことを手を替え品を替え説得してくれるのだ。
 でも本当だろうか?
 いや、遺伝子操作やクローン、原子力など、科学技術の危険を怖れるあまり、科学の限界や節制や警告を説くことが科学者や知識人の良心であるかのように錯覚されがちな今日だからこそ、思い出そう。本書のように、限りない進歩への野望を臆せず語る率直さが科学者本来の良心だったはずだ、ということを。科学文明の一員として生まれた幸福と誇りを実感させてくれる、元気の書である。

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