三浦俊彦による書評

★ 桜井浩子『ウルトラマン創世記』(小学館)

* 出典:『読売新聞』2003年9月14日掲載


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 夢のようだ。あの毎日新報のカメラマン江戸川由利子=科学特捜隊員フジアキコの語りで、ウルトラQ・ウルトラマンの舞台裏をこうもつぶさに振り返ることができるなんて。
 九年前に『ウルトラマン青春記』(桜井浩子著、小学館)が出たときも「うわあ!」と思ったものだが、今度はまた一回り大きな判型。
 私的回顧で綴られた『青春記』に比べ、旧スタッフ・キャストまじえた座談会の比重が増している。本文も、関係者インタビューから起こした各監督人物評、特撮技法解説まで広がった。一文ごとに改行という、まさにウルトラ原体験を走馬灯で見せるテンポの文体がうれしい。
 『青春記』の座談会をほのぼの取りまとめていたムラマツキャップ(故小林昭二)が本書では思い出話の中の出演となったのがさびしいが、そのかわり、三十七年前僕ら怪獣少年の代表で見習い科特隊員をつとめたホシノ君(津澤彰秀)が座談と対談に登場してくれた。
 僕らウルトラ第一世代の特権意識と幸福感を共有しない人たちにも、特撮番組創生の実験精神のオーラは伝わるだろう。映画人とテレビ人がライバル意識剥き出しで制作に携わる様子、放送産業スパイ対策など、高度成長期独特のエピソードも楽しい。そういえばウルトラQの撮影開始は、努力と能率を象徴する東京オリンピックと新幹線開通の年。二つともドラマに使われていた。ウルトラは戦後史なのだ。
 「歴史を作る」という意識など当時は全然持たなかったと著者は述べる。まあ当然か、なにせ子ども向け怪獣映画なのだから。しかし、だからこそいま、当時の子どもたちによる熱いリバイバルが企てられもするのだ。むろんすべての子ども番組が華やかな再生を遂げるわけではない。ウルトラはやはり特別だった。本書がその秘密を多角的に明かしている。十二月発売予定という本書のDVD版にも、さらなる秘密が垣間見えていることだろう。

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