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三浦俊彦による書評

★「今年の収穫 私が選ぶ3冊」
(1)飯田隆『言語哲学大全』第4巻(勁草書房)
(2)柳瀬尚紀『猫舌三昧』(朝日新聞社)
(3)夢野もれら『アゴヒゲ王物語または蘭麝国ものがたり』(サンマーク出版)

* 出典:『論座』2003年1月号


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 九月に、飯田隆『言語哲学大全』第4巻が出た。第1巻が十五年前。第3巻が出てから七年。待望の完結である。年月、品質ともに「大全」の名にふさわしい。現代英米の言語哲学のほぼ網羅的な、画期的な入門書である。科学に最も密着した潮流「分析哲学」がどれほどの地点まで進んでいるのか、素朴な日常思考と、論理を徹底的に突き詰めた言語観との違いはどこにあるのかをじっくり味わうには最適の書だ。いつ完結するのか、本当に完結するのかと多少やきもきしていただけに、完結編上梓は心から喜ばしく思った。ここ二十年間の日本の哲学出版界において最大の出来事といっても過言ではなかろう。
 柳瀬尚紀のエッセイ集『猫舌三昧』にも驚いた。著者の超人的な言語職人芸には改めて驚くまいことか、さらにはむしろ、このようなエッセイが新聞に毎週連載され好評を博しつづけているという事実に対して驚いたのだ。日本の新聞の読者層というのは相当レベルが高いものらしい。
 夢野もれら『アゴヒゲ王物語または蘭麝国ものがたり』というファンタジー小説は、主人公がアゴヒゲアザラシというタイミングの良さ。八月一日発行なので、タマちゃんブームに乗っかろうと急遽書かれたものではない。この時事的符合とは裏腹に、古き良きグラムロックの歌詞があちこち引用されたりして、70年代回顧の香気を社会批評込みで楽しめる、奇妙な一作である。

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