書評目次
三浦俊彦による書評
★ 山祐嗣『思考・進化・文化』(ナカニシヤ出版)
* 出典:『読売新聞』2003年10月5日掲載
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進化心理学と日本人論を組み合わせた異色の評論だ。確率や推論にかかわるいくつかの有名な勘違い系パズルを材料にし、無意識的な洞察(ヒューリスティックス)と意識的な論理という対比にのっとって、合理的思考のコツを説いてゆく。
論理と合理性とは必ずしも一致せず、という指摘が再三出てくるのだが、最低限の論理思考を身につけよという基調は変わらない。日本人が無意識の直観に頼りすぎるようになった歴史的経緯を分析するうちに、「西洋の個人主義/東洋の集団主義」という類型的な見方にそれなりの根拠が与えられる。日本人の思考習慣は時代に応じ変わるべきだが、最近の「ゆとり教育」「心の教育」は逆効果だろうというのが著者の懸念だ。漫然たる「心」の尊重は、村落共同体的な「甘え」への退行ではなかろうかと。
論理学から文化論まで盛り沢山な素材がわずか九十六頁に凝縮された。文章もやわらかくて読みやすい。忙しい読書人にとっては大変お得な一冊である。
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