三浦俊彦による書評

★マーク・エイブラハムズ『イグ・ノーベル賞』(阪急コミュニケーションズ)

* 出典:『読売新聞』2004年5月2日掲載


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 イグ・ノーベル賞の創設者が書いた、受賞者の業績紹介書。歴史は浅いが、ハーバード大学講堂での授賞式が日本でもテレビ放映されるほど世界的に有名な賞で……などとおさらいするより、受賞業績を見た方が早いだろう。
 ダッチワイフによる淋病の伝染の研究。体長1センチ以下のミニ原人の化石の発見。ハトにピカソとモネの絵の識別を訓練した研究。アポストロフィの誤用を撲滅する保護協会。ネコのタイピングを感知して入力停止するソフトの開発。車輪の発明で特許が取れることを実証した男。特定の銅像にハトが糞をしない理由の研究。ちなみにこれらのうち三つは日本人の業績だ。
 日本は意外と受賞大国で、「たまごっち」が経済学賞、犬語翻訳機「バウリンガル」が平和賞といえば、この賞の性格も自ずとわかるだろう。裏ノーベル賞と言われながら、決してワースト・ドレッサー賞やラジー賞のような、単純な不名誉賞を意図した企画ではない。
 皮肉っぽい授賞もたしかに見受けられる。ミステリー・サークル捏造者に物理学賞。乱闘は戦争よりましであることを立証した台湾議会に平和賞。原爆投下五十周年を核実験で記念したシラク大統領に平和賞。結婚産業のマス・プロダクションを合同結婚式で実現した文鮮明に経済学賞。服役中で授賞式に出席できない受賞者も多い。だが基本的に、トンデモ気味ながらあくまで真面目な科学研究が受賞の主流を占めている。
 普通の読書とは違う異質の笑いでフラストレーション退治したい人に最適な本だ。フラストレーションといえば、ツバ吐きやガム噛みに罰則を科した前シンガポール首相が、動物実験並みの「負の強化」状態に国民を三十年間置いた功績でイグ・ノーベル心理学賞を受賞しているが、この賞を創設した著者自身が、新種の笑い提供の功績により、イグ・ノーベル生理学賞受賞に値するのではなかろうか。

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