三浦俊彦 - エッセイ索引

(エッセイ)三浦俊彦「「子供とネット」識者に聞く」

* 出典:『読売新聞』2004年7月1日夕刊」


 eメール、電子掲示板、チャットなどの「新通信」は、電話、郵便という二つの「旧通信」の中間形態だ。対面度・肉声度においては電話未満、郵便以上。熟慮度・保存性においては電話以上、郵便未満。両極の隙間を埋めるこうした中間モードは、従来も、交換日記のたぐいがあった。だから一対一の対話形態としては、新通信に革新的なところはない。むしろ内容もテンポも馴染みの枠にとどまりながら、なまじ公共的装いを帯びたところに、新通信のアンバランスがあるのだろう。
 たとえば、身近な人にも知らない人々にも同一メッセージを同時発信できること。逆に言えば、掲示板に書き込んできたのが親友なのか未知の人なのかネットロボットなのか、一目ではわからなかったりする。自治体、企業、個人のサイトが似た外観で次々立ち上がる合間を縫って半信半疑で私的通信を交わすうちに、公私、親疎、遠近の別が見失われる。対話術の未熟な子どもは、文脈による態度の使い分けができなくなってしまうだろう。
 といった具合にいくらでも、子どもの心とインターネットとの因果関係の理屈は紡ぎ出せるものだ。社会問題の元凶を新技術や新システムに求める紋切型の印象批評が、それこそネットやマスコミに溢れかえり、それ以上複雑に考えなくていいんだという安心感をもたらしている。新技術に対してだけでなく、昔からあるそうした「識者」らの言論癖にも、警戒の眼差しを向け続けねばなるまい。